扉は開くのか?

 そして、五年の月日が流れた。富士山に作られた研究所に世界中から集まった研究者は数千にまで増えた。扉を開ける番号は、まだ分かっていない。


 しかし、その過程で生まれた多くの技術は広く世界に使われ生活を豊かにしていった。そのため、国民から、「研究をやめろ」との声は出なかった。


 研究の開始当初は一般人の立ち入りが禁止されていたが、一年後には許可された。扉の周囲に展望台が作られ、観光の目玉になっていた。そんな中、久々に大臣を集めた会議が開催された。


「随分、長く首相を拝命してきたので、そろそろ後任に譲ろうと思っている」


 大臣の顔ぶれは随分変わった。変わらないのは、首相と科学技術担当の大臣、あとは数名程度だ。首相の突然の意思表明に皆、目を丸くした。


「そこで、例の『扉』の件に区切りをつけたいと思っている」


 区切りというのは、研究終了を意味していると大臣たちは悟った。


「開けるための糸口は見つかったかね?」


 優しい口調で問う首相に対して、科学技術担当の大臣が声を上げた。


「操作パネルの分析は、かなり進みました。これが翻訳機です」


「翻訳機?」


 首相は、久しぶりの情報に興味を示し、前のめりになり耳を傾けた。



「小さいノブは、我々の言葉、日本語を入れるものなのです。『あ』から『ん』まで平仮名で五十音を入れるのです」


「確か、その下に表示部あったと記憶しているが」


「はい。そこに表示されるのは『彼ら』の言葉なのです。彼らの文字はどうやら百文字あるようです」


「彼ら……とは?」


「扉を作った誰かです」


「宇宙人、なのか?」


「分かりません。我々より技術が進んだ誰かです」


 首相は腕組みをして考え始めた。多額の税金を投入した手前、そろそろ終了を考えていた。しかし、ここでめてしまうのは勿体もったいない気がしてきた。


「おかげで、彼らの言語が解読できました。それが、この翻訳機です」


 科学技術担当の大臣は自慢げに周囲に見せつけた。


「それは素晴らしい!」


 別の大臣が突然、声を上げた。


「しかし、彼らの言語が読めたとして、何の意味があるのかね?」


 さらに別の大臣が口を挟む。正論だ。読めただけでは何もメリットがない。


「国民に研究を継続すべきか改めて問う必要がある。何か良い案はないかね?」


 大臣たちは皆、頭を悩ませ始めた。


「この案はいかがでしょう?」


 若い大臣が手を上げた。


「扉を開ける方法を考えてください、と国民に問うのです。クイズゲームみたいなものです。そして、良い案を称えるセレモニーを実施してはいかがでしょうか?」


「なるほど、研究継続のために改めて国民の興味をあおるわけだな。名案だな」


 大臣の一人が膝をポンと叩いて賛同したが、首相は乗り気ではなかった。しかし、多くの大臣が賛同するので渋々、その案に合意をした。


「皆がそう言うならやってみよう。有望な案には賞金を出してもいい」


 早速、広報担当の大臣が実行に移した。


 一カ月間、『扉』を見学しに来た人々にアンケートが実施された。世界中の人が訪れるので、多様な意見を収集できると期待された。


「首相、集まった案のグランプリはこの場で決めたいと思い、集計結果をお持ちしました」


 会議で広報担当の大臣が議題にあげた。


「数千もの案が集まりましたが、明らかに不採用なものは部下に省かせました」


 首相と大臣に紙が配布された。そこには、最終的に残った百個の提案が載せられていた。


「核爆弾で爆破する、こんなのも残っているのか」


 ある大臣が呆れた声で紙に視線を落とす。


「地下から侵入する、というのもあるが?」


 別の大臣が読上げる。


「それは試しましたが、扉と同じ材質の壁に阻まれました」


 皆、選択に迷い頭を抱える。


「これは面白いと思うが。十番目の提案だ」


 首相が声を上げた。確かに他の案よりは良さそうに見えた。首相が気に入ったのならそれで良いと、他の大臣たちは考えた。


「いいですね! それで行きましょう」


「さすが、首相。選球眼が違いますね!」


 大臣が次々と忖度そんたくの言葉を並べた。機嫌が良くなった首相は十番目の案をグランプリにすることにした。所詮、興味をあおるためのセレモニー。どの案でも良かった。


「これなら、実際に試すことができる。早速、次の日曜日に現地でセレモニーを開催しよう。案を出したのは……小学五年生の少年だな。彼も現地に呼んでくれ。私も参加する」


 広報担当の大臣が早速、企画を実行に移した。


 日曜日。富士山火口の『扉』付近には、世界中からマスコミが集結していた。一般人も多く観光に訪れる中、セレモニーが開催された。


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