全員がデス
「警察に踏み込まれたことは?」
『無い。ここに来る連中は訳ありだ。垂れこんだりはせん』
「家族が怪しむことはあるだろ。帰ってこなければ」
『そうだな。だから、場所を何度も変えておる』
「何人くらい扉に挑戦した?」
『覚えとらん!』
老人の大声が、安物のスピーカから割れて室内に響く。声に苛立ちの色が見えた。
『扉の質問をせんのか? 君はもしかして警察か?』
若い男性はハッとしたが、表情に出すことは無かった。何かを悟られることは避けなけらばならない。
「私は売れない小説家でね。不可思議な出来事に興味があるのだ」
『私にか? それとも金塊にか?』
「全部だ」
『ハハハ、おもしろい。いいだろう。君は三カ月ぶりの客人だ。ちょうど、暇を持て余していたので付き合ってやろう』
――作戦通り
どこから切り出そうか。若い男性は、事前に検討したいくつかのシナリオを頭の中で反芻した。
『何なりと質問するがいい。まあ、正確に答えるとは限らんがな。ヒヒヒ……』
老人の声が甲高く響く。
『答える前に約束してもらおう。扉への挑戦は必ずしてもらうぞ』
話しだけ聞いて帰るのは無しということだ。
「約束しよう。オレは貴重なネタと、金塊の両方を手に入れる」
若い男性は、見下されないように語調を強くした。
「改めて聞こう。これまで、何人がチャレンジした?」
『百七人。全員が失敗したがね。君が百八人目だ』
想像以上に多い。確率が二分の一なら、百人もの人間が連続して失敗するのは不可解だ。
「なぜ、一人も成功しない?」
金塊など、無いのではと懐疑的になっていた。
『疑っておるのか? まあ、百人も失敗しておればそう思うのも当然じゃがな』
老人の声が途切れた。考えているようだ。
『よかろう。なぜこんなゲームを始めたのか話してやろう。じゃが、その前に君のことを話してもらおうか』
「いいだろう」
若い男性は首を縦に振った。男性の目が少し険しくなる。
「前回、ここに来た人間は?」
自分の事を話すと言いながら、若い男性は質問を返した。
『三カ月前。若い女性だったな』
「……それは、オレの婚約者だ!」
間髪入れずに叫んだ男性は、スピーカを睨みつけた。姿の見えない老人が一瞬、言葉を詰まらせた気がした。
『それは悪いことをした……といっても、彼女が希望して来たのだがな』
老人の声には嘲笑が混じっていた。男性の告白に驚きはあったようだが、罪悪感があるようには聞こえなかった。
「オレには借金があった。オヤジの会社が倒産して連帯保証人だったオレに振ってきたんだ」
男性は悔しそうな表情をした。
『婚約者の危機を救うために彼女は……
「失踪前に彼女は言った。大金が入るから、安心してって」
男性は涙を浮かべて苦悩の表情をした。
「
『作り話だどは思わんかったのか?」
「その友人の知り合いは失踪して戻っていないそうだ。それで、オレは事実だと確信した」
『で、君は私に復讐をしに来たってわけだ』
若い男性はうつむいて、黙ってしまった。
しばらくすると、その肩が上下に震え始めた。
「フフフフ……ハハハ!」
若い男性は顔を上げて、狂ったように笑い出した。
「復讐? あんな女のためにか? 決まっているだろ!
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