第七話 デスゲーム

廃村

 一台の車が山奥の村に入っていった。その村は誰も住んでいない廃村。十年ほど前に最後の住人が去ってから、建物だけが放置されていた。


 日が落ち、周囲には暗闇が迫っていた。車は村の入り口付近で止まる。エンジンを停止させた車から出てきたのは一人の男性。容姿から二十代に見えた。襟付きの半袖に綿パンのラフな恰好だが、目つきは鋭い。


 若い男性は、懐中電灯をつけて村の奥へ歩み始めた。電灯がない廃村は真っ暗だ。行く先が決まっているのか、迷わずに村の奥へと進む。


「ここか」


 村の一番奥にある小屋の前で立ち止まった。人が住めるほど大きな小屋ではない。一部屋ほどの広さしかない小さな小屋。


「聞いた通りだな」


 若い男性は懐中電灯を消した。ボロボロのその小屋の中には薄っすらと電灯が灯っている。虫に食われた板の隙間から光が漏れ、地面をぼんやりと照らしている。


 若い男性は、扉のノブに手を掛けた。鍵は掛かっておらず簡単に開いた。


 ギギギ……ドアの蝶番ちょうつがいがきしむ音がした。


 男性は、深呼吸をしてから小屋の中へと進んだ。室内には木製の古い椅子が一つ、ぽつりと置かれていた。


『座りたまえ』


 突然、声が聞こえて若い男性はビクッとしたが、指示に従い腰を下ろした。声は天井に備えられた古いスピーカーから発せられた。老人男性のようだ。


 男性は室内をぐるっと観察した。天井には裸電球が一つ。そして、小屋の奧に……不思議な構造なのだが、二つの大きな扉がある。


――聞いた通りだ


 若い男性は、内心でほくそ笑んだ。一つの扉は真っ赤、もう一つの扉は真っ青なペンキで着色されていた。それらは薄い電球の光を異様に反射していた。


『その様子だと、ここがどういう場所か分かっているようだな』


 どこかにカメラがあり、見られているのだろう。男性はカメラを見つけることはできなかった。しかし、それはどうでもいいことだった。


「もちろん。でないと、こんな所まで来ない」


 若い男性は、強い語調で答えた。


『知っているかもしれんが、念のためルールを説明する』


 若い男性は鋭い視線をスピーカに向けてうなずいた。


『ルールは至ってシンプル。二つの扉の先、一つには死、もう一つには大金が待っている』


「大金とはいくらか、教えてもらおう」


『現金ではない。一トンの金塊だ。いくらになるかは知らん』


「ヒントはないのか?」


『ない。ただ、君が望むならワシと会話をすることは可能じゃ』


 本当の事を言うとは思えないが、会話の価値はありそうだ。


「これまで、成功者は?」


『おらん』


「死とは何が待っているんだ?」


『床が開いて落ちるのだ。下には針のむしろがある』


「誰も成功していないのは、両方とも死につながっているのじゃないか? そうでないと言える理由は?」


 男性は死にたくはない。疑問点はできるだけ消しておきたい。


『ワシに、それを証明する義務はない。嫌なら帰るがいい。入口に鍵は掛かっておらん』


 相手に有利なゲームだと分かっていた。引き返すべきか一瞬だけ悩むが、その考えをすぐに振り払う。


「オレだって死にたくはない。もう少し会話をさせてもらおう」


 若い男性は足を組んで、スピーカを見上げた。


「会話することなく、いきなり扉を選ぶヤツはどのくらいいた?」


『95%といったところだ。ここに来る連中は大抵、追い込まれておる。周りくどいことはせん』


「失敗した連中はどこにいる?」


『想像に任せる』

 

 どちらかの扉の先、床の下に大量の死体があるのか。男性の背中に冷たいものが走った。


(続く)

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