冷蔵庫から出たら……
――ガシャガシャ
物音で目が覚めた。扉を開けようとする音がする。外に誰かがいる。
――助かった!
僕は、中にいることを知らせるために内側から扉を叩いた。
――ガシャ
扉がゆっくりと開いた。外から、光が差し込む。時間的には夕方。日の光ではなく、赤い夕日が冷蔵庫の中を照らした。ずっと暗がりにいた僕には眩しく、目を細めた。
――ギギギギ
金切り音とともに扉が大きく開かれた。僕は外に出た。
――ウソだろ
僕は上を見上げた。そこに立っていたのは、身長が三メートル以上もある細身のロボット。頭の部分にはピコピコとライトが点滅している。手足が異様に長い。そして、なぜか大きなホウキを持っている。
――6ニンメ カクホ シマシタ
ロボットは頭部を赤や緑に点滅させて、合成音のような声でしゃべった。僕は一歩、後ずさった。
「お、お前は誰だ? 六人目って……どういうことだ!」
想像を超える光景に怯えながらも、威勢を張った。
――コノ、クニ ニッポン コノ、クニ
「ニッポンがどうした!」
――アナタ 6ニンメ
意味が分からない。何かを伝えようとしているのか? 襲ってくる様子はない。
――アナタデ ゼンブ ニッポンハ 6ニン ダケ
「!?」
日本に六人だけだと?
「せ、説明しろ!」
夕日に照らされて赤く光るロボットに僕は食って掛った。
――イライ カンリョウ マモナク テッシュウ
「説明しろ!」
――タシカニ アナタニハ キク ケンリガ アル
ロボットはカタコトの日本語で説明を始めた。その説明は十五分にも及んだ。
――イジョウダ ケントウヲ イノル
ロボットの頭上に大きな円盤が現れた。その円盤から光が発せられ、ロボットが吸い上げられていった。遠くを見ると、あちこちに円盤が現れてロボットを回収している。
目を凝らすと、大きなチリトリを抱えているロボットもいる。そのチリトリには、何かが山積みされている。
――人だ
僕にはすぐに分かった。説明はウソではなかったのだ。
目の前のロボットを回収した円盤は空高く上昇し、あっという間に見えなくなった。あちこちに現れていた円盤も同様に上昇して消えた。
周りは薄暗くなっていく。
――静かだ
うちに帰ろうか?
でも、家に帰っても誰もいないことは分かっていた。
学校に行ってみようか?
でも、どうせもう誰もいない。
ロボットの説明はこうだ。ロボットはお掃除専門の宇宙人。他の星の宇宙人に依頼されたらしい。地球の資源を食いつぶす人間に懸念を抱いたそうだ。
他の星の宇宙人は、近い未来、地球人が宇宙に進出をすると見込んでいた。自分の星が浸食されるのを恐れて先手を打ったのだ。地球人をお掃除して減らすことで。人数が減れば、使う資源も減る。地球内で十分にまかなえるという理屈だ。
あの冷蔵庫はなんだったのかって? ロボット宇宙人は、地球人を減らせと言われたが、皆殺しにはするなと言われたらしい。そこで、世界中に捨てられた冷蔵庫の扉を開けて、子供を誘いこんだらしい。たまたま、中に入った人間はお掃除せずに残すのだ。
世界中で相当数の冷蔵庫の扉を開けたようだが、中に入った人数は想定より少なかったようだ。日本ではたったの六人……。
――ひとまず、あと五人を探すか
大人がいればいいけど……。いや、大人は捨ててある冷蔵庫には入らないか。
世界で何人、残っているのだろう?
現実が受け止められない僕だが、ひとまず、廃材置き場をあとにすることにした。
見た目では、街には明かりが灯り、何も変わらない。
でも、まもなく、いつも通りではないことを思い知るのだろう。
(了)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます