第六話 捨ててある冷蔵庫には入るな!

冷蔵庫に入ってしまった!

――やめておけば良かった

 

 僕は深く後悔している。今、僕がいるのは冷蔵庫の中。といっても、寒い冷蔵庫ではない。廃材置き場に放置された古い冷蔵庫の中だ。


 学校で前に聞いたことがある。冷蔵庫に入ったら中からは開かないと。それを知っていたのに入ってしまったのは僕の落ち度だ。


 この廃材置き場は僕ら小学生の秘密基地のような場所。今日は僕たち二組と、宿敵の三組とのかくれんぼ対戦をしていたのだ。互いに五人ずつ出して隠れる。そして、双方の鬼が探すのだ。先に相手の組を全員、見つけた方が勝ち。


 隠れるのが上手い僕は、二組のエースだ。そんな僕が選んだのが冷蔵庫、廃材の山の隅に置いてあった。以前より存在は知っていたが、危ないので近寄らなかった。しかし、今日は偶然、扉が開いていたので気になってしまった。


 もちろん、中から開かなくなるかもしれないと思った。僕は馬鹿じゃない。そこで、石を挟んで少し開けておくことにした。だが、失敗した。中に入り、扉を閉めたら、石はするりと滑り落ちた。扉はそのままバタン。


――やってしまった


 腕時計を見る。ボタンを押すと光る時計。もう一時間が経つ。


 最初は窒息して死ぬのかと思ったが、その心配はなかった。冷蔵庫は錆びて腐食している。奧の角が欠けていて、ほんの少しだけ外の光が入ってくる。だからと言って、出られるほど大きくはない。


 ドンドンと扉を叩いた。誰かが近くを通って気が付くかもしれない。この際、三組の鬼に見つかってもいい。エース返上になるが、このまま閉じ込められているよりはマシだ。


 かくれんぼで一時間は長いと思うかもしれないが、僕たちの場合、そうではない。廃材置き場、隣接する森と廃校、これらは全て、隠れて良いエリアとしている。なので、終了まで二時間かかったことだってある。ただし、タイムリミットは決めてある。三時間。これを過ぎると、見つけた人数で勝敗を決めるのだ。


 前回は僕たち二組が勝った。でも、三組は策を練り、腕を上げてきている。厳しい戦いになることは分かっていた。


 さらに、一時間が経った頃だった。


 ドーーーーン。突然、大きな地響きがした。


――何だ、何だ!

 

 その後、ドスドスと大きな足音のようなものが聞こえた。


――もしかして、廃材を回収しに来たのか!? それはまずい


 そのままスクラップなんてゴメンだ。僕は、扉を必死に叩いたが。でも、気付かれる様子はない。足音が増えている。近くを歩いているようだ。冷蔵庫の欠けた部分に少しだけ陰がちらついた。


 そのうち、足音は去って行った。廃材置き場から外に向かって消えた。今回は回収対象ではなかったのか? 僕はホッとした。遠くの方で何か大きな音がしているような気がする。でも、自分には関係ない。


 二組や三組の連中は大丈夫だろうか? 大人に見つかって怒られていないだろうか?

 

 そろそろ、タイムリミットの三時間がくる。以前、友人に冷蔵庫に隠れる案を話したことがあるので、誰かが探しに来てくれるはず。


 緊張がほどけた僕は、疲れて眠ってしまった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る