第三話 突然、現れた巨大な『扉』
富士山に現れた巨大な扉
その巨大な物体が富士山で見つかったのは、山開き直後のことだった。火口付近にそびえる断崖絶壁にその『扉』は現れた。高さは五十メートル以上、幅も同じくらいあった。
最初に見つけたのは登山者だった。目を疑う光景に写真を撮り、富士山の管理事務所に連絡をした。その情報は即座に日本政府に伝えられた。
「これは……何だ!?」
写真を手にした日本の首相は言葉を失った。絶壁に沿うように作られたその『扉』は、洋風のドアのように見えた。
「急いで、大臣たちを集めてくれ」
首相の指示で、緊急会議が招集された。
「まずは、他国に知られないようにすべきではないでしょうか?」
一人の大臣が提案した。
「そうだな。富士山の立ち入りを禁止してくれたまえ。あと、これを知る者に他言無用だと念を押すように」
首相の指示を得た大臣の一人が部下にその旨を伝えた。
「で、このあとの対応について意見を聞きたいのだが」
改めて首相が大臣に問う。十名ほど集まった大臣の手元には例の写真が配られている。
「衛星写真を調べさせました」
科学技術担当の大臣が声を上げた。
「その結果、この『扉』は昨日までは無かったことがわかりました」
「では、突如として現れたということかね?」
眉根を寄せた首相が問い詰める。
「そう解釈するしか……」
その時、会議室の扉が大きな音を立てて開けられた。そして、一人の男が息を切らせながら入って来た。
「会議中、失礼します。先ほど、情報を封鎖するように指示を受けたのですが……遅かったです!」
男は室内にあったテレビをつけた。
「見てください、これはいったいなんでしょう!」
リポーターの声が室内に響いた。富士山の火口付近を飛ぶヘリコプターから、その大きな『扉』が撮影されている。
「一歩、遅かったですね。首相」
大臣が恐る恐る、首相の顔を見た。首相は眉間にシワを寄せて、「仕方がない」と言った。
「重要なのは、今後の対応だ。調査班を編成して、即座に分析を開始してくれ」
毎日、会議を行う旨を決定して解散をした。
翌日、改めて会議が行われた。科学技術担当の大臣が分かったことを報告した。
「扉は洋風のものです。高さ五十メートル、幅が四十メートル」
首相は資料に目を通しながら聞いている。
「扉はどんな材質で出来ているのだ?」
「これから調べます。金属のような、粘土のような……見たことのない材質だと報告を受けています」
的を得ない報告に首相は、資料から目を離して大臣を睨みつけた。
「扉の上の方に、何かノブのようなものがあるようだが」
拡大写真を見ると、回転式のノブのような物が複数確認できた。
「はい。何かは分かりませんが、直径三メートルの大きなノブが十個、確認されています」
「これが、扉を開ける鍵になっているのかもしれんな」
首相の言葉に他の大臣がうなずく。
「うちの官庁からクレーン車を出してすぐに調査させます」
土木担当の大臣が提案した。そして、その日の会議は終了した。
翌日。
「ノブは回転することが分かりました。ただし、相当に強い力を掛ける必要があります」
「用途は分かったかね?」
「首相のおっしゃられた通りです。鍵になっているようです。ノブの上に矢印のようなマークがありました。そこに番号を合わせていくものと思われます。さすが首相です」
科学技術担当の大臣が、首相を持ち上げつつ報告した。その甲斐あって、首相の機嫌は良いようだ。
「では、早速、番号を解読して扉を開ける作業に入ってくれ」
「首相、それには問題があります……」
「番号など、総当たりで試せばいいだろう」
大臣は困った顔をしている。
「一つのノブには百個の目盛りがあることが分かっています」
「しかし、ノブはたったの十個なのだろ」
首相は数学には明るくないようなので、大臣が補足をした。
「組合せは百の十乗になります。百を十回かけ合わせた数字です。ゼロが二十個並びます。桁で言うと、兆や京を超えて
「それでも、しらみつぶしに試せばよかろう!」
首相はまだ納得が出来ない様子だ。
「ノブを回すには相当な力が必要です。一日に十個しか試せません。総当たりが終了するまで二・七京年、掛かります」
計算機を叩きながら大臣が答えた。さすがの首相も諦めた様子だ。
「ではどうすればいいんだ!」
対策が出てこないことに憤りを覚えた首相が怒り始めた。
「首相。他国から多数、共同調査の申し出がきていおります。彼らの解析能力を借りて調査するというのはいかがでしょうか?」
首相は腕組みをして考え始めた。何か突拍子もない発見があるかもしれないと思っていた首相は、他の国と手を組むことに消極的だった。しかし、日本の中だけでは調査が進まないことは分かっていた。
「仕方ない、他国の申し入れを受けよう。ただし、条件がある」
首相が付けた条件はこうだ。調査の過程で分かったことは秘密にしないこと。調査の過程で出来た技術は広く誰でもが使えるようにすること。申し出があった国は分けへだてなく参画できるようにすること。以上の三点だ。
その後、多国籍の調査チームが編成された。研究者の数は数百人に上った。
富士山は一般人の立ち入りが禁止され、山頂付近に巨大な研究施設が作られた。調査チームはデータの取得、分析や、解析のための技術開発を行った。
数か月後、大臣を集めた会議で調査の進捗が報告された。
「最近、新着情報が乏しいのだが、進捗はどうかね?」
首相が各大臣を問い詰めた。
「分かったことが、多くあります」
科学技術担当の大臣は鼻息荒く報告を始めた。
「まず、扉の材質です。これは、地球には無いものです」
「どんな材質かね」
「表面はやわらかいのですが、どんな爆発物も受け付けないほど固く……」
「柔らかくて、固い? どういうことだ。それでは、何かが分かったとは言わないだろ!」
険悪な雰囲気に、まずいと思った大臣は次の報告に移った。
「新たな発見がありました。扉の下の方に人でも容易に開けられる開き扉がありました」
「中に入れたのかね?」
「いいえ、操作パネルのようなものです」
大臣は写真を首相に手渡した。人でも操作できるサイズのノブが十個と、その下に十個の表示部がある。
「この小さいノブを回すと、下の表示部に何やら文字のようなものが出るようになっています。おそらく、巨大ノブで解除する番号に関連する可能性があります。幸い、小さいノブは人でも回せます」
手がかりが見いだせた首相は安堵し、冷静に次の指示を出した。
「扉を作った者が残したヒントかもしれん。暗号や言語の学者を集めて解析させろ」
指示を受けた大臣は、各国に連絡をして世界中の権威ある学者を集めた。
その後、数か月間、めぼしい結果は得られなかった。日々行われていた会議も一週間に一度になっていた。当初はテレビなどで大々的に放送さていたが、進捗が無いため報道の頻度が下がっていた。
「そろそろ、何か新たな情報が出ないのかね?」
首相の声は苛立ちを超え、諦めた印象だ。
「いくつか分かったことはあります。扉を開ける方法に直接は関係しませんが」
「まあいい、教えてくれ」
「内部を電波や音波で調査する技術を作りました。中は奥行が五十メートルほどの空洞です。一番奥に一メートルほどの突起物があるようです」
「壊さずにそこまで分かるとは、素晴らしい技術だな」
報告内容よりも、首相は新技術に興味を示した。進捗が乏しい中、その話題の方が好都合だと思った大臣が解説を続けた。
「この新技術はすでに世の中で使われ始めています。古墳の中の調査とか、古くなった建物の検査などです。壊さずに調査したいという需要は多くあります」
首相が付けた条件のおかげで、調査過程で得た技術は即座に開示された。それが功を奏したのだ。
「あと、これも扉を開けるのとは無関係ですが」
多額の費用を投じている調査が無意味ではないと分かった首相の機嫌は上向いていた。それを感じ取った大臣が追加の情報を伝えた。
「富士山は活火山ですが、この先、千年は噴火しないことが分かりました」
「ほう。なぜそんなことが言えるのかね?」
「扉は火口付近にあります。多くの地質学者が集まり分析技術を磨きました。その結果、マグマの動きや地盤の仕組みを解析する新しい技術が開発されたのです」
「それは素晴らしい。活火山が多い我が国には朗報だ。多額の税金を投入していることもあるので、その情報は広く国民に開示してくれたまえ」
大臣は、退室して早速、部下に指示を出した。
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