第四話 博士の素晴らしい発明
どんな扉も開けられる装置
(1)
ある科学技術が進んだ小国のお話。その国には技術力を売りにした大きな企業があった。その企業は民生品だけでなく、軍事的な製品も供給していた。
ある日、その企業に勤める博士が、役員会で研究成果の報告をしていた。
「社長、素晴らしい発明が出来たのです!」
年老いた博士は、鼻息荒く報告をした。
「どんな発明だ?」
社長は興味がなさげだ。博士の最近の研究は要領を得ない。新製品につながらず、研究費が浪費されていた。しかし、クビにすることはできなかった。長年、勤めてきた博士は、過去に大きな実績を上げていたからだ。
「それは、『どんな扉でも開けてしまえる装置』です。もう、完成しています」
博士の説明はこうだ。最近、物を破壊せずに中身を分析する技術を研究していた。その技術に人工知能を掛け合わせると、鍵がなくても開ける方法が分かるようになったとのこと。
さらに、電磁波や、ロボットアームなどを組み合わせることで、鍵が無くてもどんな扉もあけられるようになったそうだ。ダイヤル式の扉にも対応している。
「その装置は、どのくらい売れるのかね?」
社長は会社の利益を優先する立場にある。売上に繋がらないと意味がない。
「そんな装置を我が企業が売り出すと、大変なことになります」
役員の一人が声を上げた。社長が理由を知りたがったので、その役員は話しを続けた。
「だれでも鍵が開けられるなら、金庫も家の鍵も役に立たなくなります。犯罪率も上がるでしょう。企業の名声が一気に地に落ちます」
社長はその説明に深く納得した。
「その装置は、売り出すことはできん。我が社の名に傷がつかないような使い方を考えるか、そうでなければ研究中止だ」
(2)
博士は肩を落として、研究室に戻った。そして、研究室の仲間に結果を伝え、何か良い使い道はないか考えた。
「こんな使い方はどうでしょう?」
若い男性研究員が、興奮気味に椅子から立ち上がった。
「装置を売るからだめなんです。鍵を開けるサービスを提供すればいいのです!」
「サービス?」
博士は、イメージが湧かないようだ。
「鍵を無くして困っている人や、古い金庫を開けたくて困っている人に有料で鍵を開けるサービスをするのです」
解説を聞いた博士は、名案だと思った。装置は企業が持ち、サービスを提供するのだ。それなら、人助けになる上に、外部の人が悪用することもない。
早速、次の役員会で提案をした。大賛成が得られたわけではないが、装置を売り出さずに会社の新しいサービスに繋げられるということで反対もされなかった。まずは、テストとして小さいサービスから始めることになった。
(3)
まず、新聞のチラシで仕事の募集をすることにした。『鍵を無くしてた扉、何でも開けます』と宣伝した。
最初の依頼は、玄関の扉だった。外で鍵を落としたのだそうだ。チラシを見た友人の勧めによる依頼だった。鍵さえ開けられれば、室内に別の鍵があるとのことだ。
「企業秘密なので、鍵を開けるところは見ないでください」
依頼人に離れてもらい、博士は装置を使って鍵を開けた。あまりの速さに、依頼人は関心して謝礼を払った。
その後、依頼は、少しずつ増えていった。想像した以上に需要があることが分かった。小さいサービスから始めるという、社長との約束があったので大々的に宣伝はしなかった。しかし、どんな鍵でも開けられるサービスがあることは、人づに広まっていった。
そんなある日、事件が起こった。博士が帰宅し、自宅に入る直前の事だった。
「着いてきてもらおう」
博士は、背後から何かを突きつけられた。
「ピストルだ。逆らわないほうがいい」
サングラスに深い帽子を被った男性は脅しの言葉を口にした。
「ひっ……」
博士は小さく悲鳴をあげた。
「その装置を持って、車に乗れ」
翌日の依頼のために装置を持って帰っていた博士は、黒い車に乗せられた。
車に入ると目隠しをされた。車がどこを走っているか検討もつかない。相当な時間、走ったあと目隠しのまま降ろされた。
「取ってやれ」
意地悪い、冷淡な男の声が聞こえた。目隠しが外された博士は、高価な絵画や壺が置かれた洋室にいた。
周りを見ると、声の主が大きなテーブルの脇の椅子に座っている。太っていて人相が悪い。周囲にサングラスの男が数名、立っている。
博士は少し後ずさりをした。すると、博士は何かを踏んだ。
「ひい」
小さく悲鳴を上げた博士が見たのは、うつ伏せに倒れた男性。
「この屋敷の主人だよ。金庫の開け方を聞き出そうとしたが、言う前に死んでしまったのだよ」
椅子の男は葉巻を出して、火をつけた。
「君はどんな扉も開けられるそうだね」
博士は誘拐された目的を悟った。大金持ちの家の金庫を開けさせるためなのだ。
「私は、あ、悪事に加担は……できない」
博士は勇気を振り絞って言った。
「ボス、この装置、簡単に使えそうですぜ」
サングラスの男性の一人が、椅子の男に報告した。
「じゃあ、博士には死んでもらおうか」
殺される……そう思った博士は必死に考えた。
「そ、その装置は、私が操作しないと動かん。そういう仕掛けだ!」
「ボス、確かに電源が入りません」
博士が言ったことは方便だった。サングラスの男性が電源の位置を誤っていただけで、装置は誰にでも使えた。
「じゃあ、博士。君が開けてくれたまえ」
ボスと呼ばれた男は、葉巻の煙を吹きながら威圧的に言った。
犯罪と分かっていたが、やらないと殺される。そう思った博士は渋々、金庫を開けることにした。装置を持った博士は壁際に置かれた金庫へ向かって歩いた。
「そこまでだ!」
突然、大きな音とともにドアが蹴破られた。ピストルを持った警官が室内になだれ込んできた。突入に対応できなかった悪人たちは全員、捕まった。
博士は、悪事に手を貸すことなく難を逃れることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます