ノンノンノ星人の提案

(3)

 翌日。打ち合わせは会議室で行われた。大きな机の両側に椅子が置かれている。一方には、ノンノンノ星の営業担当が座り、対面に大統領と副大統領が座った。双方、挨拶をしたあと、会議を開始した。


「失礼ですが、ノンノンノ星の方々の身長はあなたぐらいなのですか?」


 身長は地球人の半分ほど。頭髪は無く、クリっとして大きな目が特徴的だ。こう書くと、気持ち悪い生き物を想像するかもしれないが、そんなことはない。むしろ、人形のようで愛らしい印象だ。


「はい。私は平均身長ぐらいですノン」


「語尾に『ノン』とつくのは、癖か何かでしょうか?」


 雰囲気を和ませるために副大統領が話題を振った。


「これは、ほかの星の人と話すときの我々のルールなのです。会話は録音されることが多いので、我が星の者が話したことが分かるようにしているのですノン」


 ノンノンノ星の営業担当は甲高い声で答えた。


「早速、ビジネスの話しをしましょう。我々、ノンノンノ星人はせっかちな性分でして。あなた方から見ると、焦っているような印象を受けるかもしれませんが、お気になさらずノン」


 営業担当は、持ってきた紙袋から大きなファイルを取り出し、机の上に置いた。


「様々なプランをご用意しております。エリアの大きさ、対象人数などで個別に費用の調整が可能です。まず、課題と思われていることをお聞かせくださいノン」


 その問いに対して、大統領が返答した。できるだけ詳しく、具体的に説明することを心がけた。


「なるほど、良く分かりました。根が深そうですね。でもご安心ください。我々はそういった星々にアドバイスをし、すでに数百もの成功事例を積み上げておりますノン」


「どういった方法をお使いになるのか、始めに要点を教えていただけますか」


 副大統領が切り出した。そもそも、方法に納得性がないなら話しを聞く時間が無駄になる。


「あなたは、我々以上にせっかちなようだ。簡単なことです。扉や壁といったものを全て取り払うのですノン」


 大統領と副大統領は目を丸くして、顔を見合わせた。


「そうすると、プライベートというものが無くなってしまいますわ」


「プライベートを極度に保とうとするから引きこもってしまいますノン」


 副大統領は、突飛な解決策にこのまま話を進めていいものか悩んだ。そして、こう質問した。


「地球は気候の変化が大きい星です。壁も屋根も扉も取り払ってしまったら、人々が風雨にさらされてしまいます」


 答えが要領を得なければ引き取ってもらうつもりだった。しかし、ノンノンノ星人の方が一枚上手だった。


「そういう星は多くございます。そこで、我々はこういう装置を開発しましたノン」


 営業担当はファイルを開いて、二人の前に差し出した。


「これは?」


「気候制御装置です。これを使うことで一年中、外で寝ることができますノン」


「立派な装置のようですが、お高いのですか?」


 税金を預かる立場の大統領としては当然の質問だ。


「一台、百億ユニバースです」


「それは、高価ですな。どのくらいのエリアをカバーすることができるのですかな?」


「おおよそ、百万人が住むエリアがカバーできます。通常は装置の代金に加えて、アドバイス料金もいただきます。しかし、今回は特別サービスとして、装置を購入いただければアドバイス料金は無料にしますノン!」


 費用について二人の眉が寄っていることに気づいた営業担当は、すかさず対案を提示した。


「それにしても、全人口をカバーするには相当な税金を投入する必要がありますね。人々が納得するかどうか……」


 大統領は実現不可能な案だとの判断をしようとしていた。しかし、営業担当はさらに提案を行った。


「まずは、一部の限られたエリアで実験的に導入をしてみてはいかがでしょうか? 成功事例をまず作る、そうすると広げやすくなる。これが物事を進める鉄則ですノン」


 この言葉に二人の心は揺れた。装置一台分の費用なら何とか捻出できる。やってみる価値がありそうに思えてきた。


「内向的な人々が住む地域が適当ですノン」


「大統領。日本はいかがでしょうか? 彼らは昔からシャイなことで有名です」


「そうですね。じゃあ、日本の首相に相談してみましょう」


「一点、助言があります。実験を終了する条件を事前に決める方が良いですノン」


「では、その地域の人が実験継続を願うかで良いと思います。いかがでしょう、大統領」


「アンケートとって、その結果を使うことにしましょう」


 とんとん拍子に交渉が成立した。ノンノンノ星人は、「朗報をお待ちしております」と言い残して帰っていった。

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