第11話 出発後~馬車の中では~ マエル視点

「ロゼ。ここでもまた、2人は良いマリオネットになってくれたね」


 ハズオルエ子爵邸の敷地を出たあとのこと。背骨が折れそうなほどに腰を折り曲げる3人の姿を思い出し、僕は向かいに笑いかけていた。


 渋っていたロゼの引っ越しを二つ返事で認めてくれて、お母上の形見を大喜びで返してくれて、その上――明日は嬉々として、墓穴を更に掘ってくれるなんてね。


 数日の間に、マリオネット具合に磨きがかかっていた。今日は2日前のアレ以上、最高の操り人形だったよ。


「おまけに荷造りはほぼ2人がやってくれて、給仕係まで勤めてくれた。ああいった人間がペコペコして走り回るのは、実に面白いね」

「はい。……あの人達はお母様の形見を使い、更にはマエル様にご迷惑をかけようとしましたので。すっきりしました」


 彼女は、そこを酷く怒ってくれていた。そのため明確な頷きが返ってきて、それが終わると頭が丁寧に下がった。


「引っ越しもそうなのですが、こちらの――形見。マエル様が動いてくださったことで、大切な物が戻ってまいりました。感謝しても、しきれません。一生お礼を続けてもお返しできないほどのものを、私はいただきました」

「ロゼ、一生のお礼なんて要らないよ。僕は大切な人の悲しむ顔を見たくないから、幸せな顔が見たいから、動いただけ。私利私欲たっぷりの、欲望塗れの行動なのだからね」


 この人の場合、こういった時はジョークを交えた方が良い。僕は婚約者ならではのデータを使い、片目を瞑ってみせた。


「それに僕はまったく迷惑と感じていなくて、自責も要らないなぁ。だから、そうだね。どうしても何かをしたいと思ってくれているなら、そういうのを忘れて現状を楽しんで欲しいな」

「…………マエルさま……」

「佳境に入ったとはいえ作戦はまだ残っていて、遂行には気力と体力が必要だ。僕のエネルギー源は君の幸せ、笑顔だからね。……お姫様。わたくしめに、エネルギーを供給してはくださいませんか?」


 車内で立ち上がって片膝を突き、コミカルな動作で彼女へと手を伸ばす。そうすると――ロゼは「ぷっ」と噴き出して、「ありがとうございます」と、嬉し涙を浮かべてその手を取ってくれた。


「承知いたしました。そうさせて、いただきますね」

「うん、そうして欲しい。…………ロゼ。改めて、これからよろしくお願いします」

「はい……っ。マエル様、よろしくお願い致します」


 そうして僕達は微笑みを交わし、そのままキスをして――。お互いの声と唇で愛を感じながら、僕らは馬車に揺られたのだった――。

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