第1話 任せておいて欲しい マエル視点

「お父様とアメリは血の繋がりがありますし、ベルお母様とは血の繋がりはありませんが家族でした。ですので私自身への行動は我慢してきましたが、お母様への行動、なによりマエル様にご迷惑がかかる行動は黙っていられません」


 ロゼはお母上と物心がつく前に別れているのだけれど、不思議なことにフェリ様――母親のお顔とぬくもりを覚えていて、大切な存在であること。彼女は常日頃僕を想ってくれていて、同じく大切な存在だと感じてくれていること。

 そんな理由で珍しく瞳に怒りを宿してくれて、そんな両目が改めて僕へと向いた。


「……マエル様。暫くの間、周囲が騒がしくなることをお許しください。この問題は、私がしっかりと対処をし――」

「ロゼ、僕を想ってくれてありがとう。でもね。そうすれば君が、心身に大なり小なりダメージを受けてしまう。それに」


 それに、なにより。


「愛する人を更に可愛がってくれて、嬉しくなってしまっているんだ。この問題は、僕が解決させてもらうよ」


 ガーデンテーブルの向かい側にある、決意を宿した瞳。そちらへと微笑みを送り、そのあと右の指を2本立てた。


「もちろんお母上の形見は無傷で取り返すし、僕に何かあると君は悲しんでくれるからね。そういったこともないように、動く。だから、僕に任せてもらうよ」


 もらいたい、ではなくて、もらう。

 幾重もの強い怒りは、時に正常な判断力を奪ってしまうもの――無茶だったり、ミスだったりを生んでしまうもの。愛する人の心と身体に何かしらが起こってしまい、その上、大事な人の遺物まで失ってしまった。そんな悲劇を避けるためにも、僕が行う。


「ロゼ、君の気持ちは理解していてる。だからこそ、なんだよ。この件への対応は、僕に任せて欲しい」

「……マエル、様……。…………承知いたしました。よろしく、お願い致します」

「うん、任せておいて。言うだけ言っておいて『駄目でした』は、情けない。彼女達にはしっかりと、感謝を伝えるよ」


 そう返したあと椅子から立ち上がって彼女の右手を取り、片膝立ちでロゼを見上げる。

 これはこの国で、『誓い』を示す動作。僕は動作と言葉で成功を約束し、そうすればようやく、彼女の表情が和らいだ。


「貴方様は、約束を破らない方ですので。信頼させていただきます」

「そうしてもらえると、有難いよ。……じゃあ、とりあえずは真面目な話に一区切りついたことだしね。ひとまず、アフタヌーンティーを楽しもうか」

「はいっ。そう致しましょうっ」


 こうして僕達は久し振りの『2人きり』を楽しみ、その時間が終わると――


「あちらはロゼを甘く見ていて、形見さえあれば何もできないと思い込んでいる。その日以降何もされていないのなら、今後も何も起きないはずだからね。安心して待っていて欲しい」

「……マエル様。何から何まで、ありがとうございます」

「どういたしたしまして。ようやく父上の手伝いは終わったから、明後日からはまた学院に通える。月曜日に会おう」

「はい。月曜日を楽しみにしております」


 ――ロゼを見送って自室に戻り、愛用の椅子に腰かけ顎に手を当てたのだった。


「さあて。どうやって、お礼をしようかな」

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