第14話 再逆転 アメリ視点(1)

「焦って損をしましたわ。全部、貴方の嘘だったんですのね」


 なんで!? なんで来てくれないの……!? 頭の中がグルグル回っていたら、そんな声が聞こえてきた。


「そうやっていたら、わたくしが謝って大人しくなるだろう。アイディアが思い浮かばなかった貴方は――貴方達はそうやって、事なきを得ようとしていたんですわね?」

「ち、ちがっ! 違うっ! ちゃんとマエル様が約束してくださって――」

「だったらどうして、誰も出てこないんですの? もし本当に約束をしているのなら、今頃件(くだん)の協力者に囲まれているはずですわ」


 セレステ様は誰も居ない周囲を見回して、はぁとため息をついた。


「冷静になって考えてみたら、そもそもロゼがマエル様に訴えるはずがありませんわ。大事な形見を握られているんですし、困っているのは自分を虐げてきた人達なんですもの」

「そっ、それも違うっ! わたしはマエル様本人からそう聞いたんだもん!!」


 昨日お屋敷にいらっしゃって、お母様と一緒に聞いたんだもん! だから荷物をまとめて、お給仕をしたんだもん!

 わたしの言い分が、事実!!


「ああそう。じゃあどうして、合図があっても静かなままなんですの?」

「そ、それは……」


 それは…………。それは………………。


「それはついうっかり、やりすぎてしまったから。きっと当初は、合図を出す前で終わりにする予定だった。けれど格上を脅せる快楽に酔って、用意してもいない『その先』に進んでしまった。それが答えですわ」

「違う!! それも全部違う!! きっと、何か理由があるだけ!! 何か意図があって今居ないだけ!!」

「ふふ、愚かですわね。その計画は、平手打ちの瞬間を目撃しないと意味がありませんわよ? 肝心の証拠を手放す意図とは、なんなのかしら?」

「しっ、知らない!! でも実際そうなんだもん!! みっ、見てなさいよっ! きっとあと少ししたら!! 来てくれるんだから!!」


 わたしは自信を持って言い放って、その時を待つ。

 ……でも……。5分経っても、10分経っても来てくれなくて……。


「やはり、わたくしの読みが正解でしたわね。……証拠を確保されていないのなら、何も怖くはありませんもの。このお礼を、たっぷりしてあげますわよぉ」


 ぁ、ぁぁ……。悪魔みたいなニコニコ顔が、こっちを見てきた…………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る