第15話 ふっー!

これはゲームといえばゲームだ。タイムリミットがあり、どれくらいの動物たちの自由に生きられる環境を作るか。まぁ、具体的にはドアを開けとくとか、リードを外すとか、まだ成長しそうなペットの首輪を外すとか、エサをぶちまけとくとか、そういうことをした。


しこたま犬には噛まれた。大抵の犬は混乱状態にあった。突然家族が消えたのだから、そうなる。猫にもとても引っかかれた。マジで痛え。捕まえるのにも一苦労という場面もあった。案外ハナさんは協力してくれた。


けれど、人の姿の時はあまり俊敏な動きが得意ではないようで、またの下をくぐり抜けられたりしていた。


二十件くらいが終わったところで、かなり疲れた。時間は始めてから三時間は過ぎていた。


「まだ申請許可されませんか?」


疲れを感じながら聞いた。


「まだです」


彼女は遠い目をした。


きっと、手術途中だったような動物は、もうダメだろう。お腹が開かれた状態で麻酔が切れ、目覚めていたりしていたらと思うと、目の前が真っ暗になりそうだった。


「次に行きましょう」


ハナさんと手をつなぐと、他の景色に変わっていた。


目の前にあるのは、室内用にしては大きな水槽だった。そこには古代魚めいた無骨な魚が泳いでいた。


「マジか」


これどうすりゃいいんだ?放っておけば、コイツは確実に死ぬ。こいつの住処は海か川か。放流していけんのか?そもそもどうやって運ぶ?


迷っていると、彼女はこともなげに水槽を持ち上げた。水は満載だ。それを軽々と。


「これ、どうしますか?」

「そ、そーね。川かな」


調べたところ南米らへんにいる魚らしいので、ハナさんに放流しにいってもらった。消えて、すぐに、空の水槽片手に戻ってきた。


「あざーす」


空の水槽を元の位置にきっちり置くハナさん。


「こんなことずっとやるんですか?」


ハナさんが聞いた。少し機嫌が悪そうにも見える。珍しい。


「まぁ、できるだけ。あと少しで俺消えるし」

「他にやることないんですか?」

「ないです。あっ、それともチョメチョメさせてくれる〜?げへへ」


オッサンみたいなことを冗談で言った。


「いいですよ」


そしたら、ハナさんは着ている服を脱ごうとし始めた。


「ストップ!」

「なんですか?」

「こういうの趣味じゃない」


言ってて、自分にそんな上等な趣味があったのか、と驚いた。


「えっと、俺は要するに恋がしたいんだ。恋ってゲームが。別にオナニーみたいなセックスしたいわけじゃないんだ。だから、こういうのヤダ」


俺は何様なのか。言ってて謎だったが、いつだって俺の言ってることは謎だ。だって、フィクションだもんな。言葉なんて。でも、たまに真実もあるかもしんない。それをいつも探してる。キラメクような。


「はぁ、そうですか」


彼女は脱ぐのをやめた。同時に惜しいことをした気もしてくるが、これは仕方ない。さっさと次行くぜ!


「じゃあ、私じゃダメですね」

「えっ、いやいや、そんなことないっすよー、ハナさんめっちゃ美人で可愛いし。正直跪いてお願いしたいくらいですよー」


彼女はいつもの鋼鉄のような平熱の顔で俺の目を見た。


「私は恋をしませんし、愛も持ちません」

「ふっ、大丈夫。愛は、俺が与えてあげるよっ、ふー!」


指パッチンして、おどけて言ってみた。師匠のことを思い出す。今やもう塵だけど。俺が塵にしたのだけど。悪いことをした。けど、しゃーないな、とも思う。


指パッチンの余韻に浸っていたら、ハナさんがその指に噛み付いてきた。


「あただだだだだだ!」


痛い。痛い。噛みちぎられるかと思ったけど、ペッていって、ハナさんは指を離した。


「ええっ〜、まじ何するの?」


ハナさんは冷たく蔑むように、しゃがんでいる俺を見下ろした。


「こちらに向けられたその指が不快でした。攻撃されているのかと思いました」


なるほど、正当防衛だね。


「ふふっ、ボクのラブシャワーがお気に召さなかったのかな?」


痛みでひきつりながらもアホなことを言ってみる。アホなことを言うために言葉なんてものはあるんだから。ここで使わなきゃ損じゃない。


「ぶっ殺しますよ」


さらに冷ややかな目線を投げられた。


「すいません」

おとなしく謝っておいた。あれ?おかしいな?指を噛みちぎられそうになったのは、俺の方なのに。

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