第20話 地獄
ヒトミさんはそれから少しして死んだ。やっぱり急に外に出たからなのか、それとも食べ慣れないものを食べたからなのか、理由はよくわからない。けど、急に死ぬなんてことは、これまで過酷だっただろう彼女の人生を思えば、有り得ないことだ。つまり、原因は外に連れ出した俺にあるといえそうだ。
唯一の救いは、眠っていると思っていたら、死んでいたことだ。苦しんで死んだようには見えなかった。
「都合のいいことを考えたくなるなぁ」
俺はスコップで地面を掘りながら、そう独りごちた。
最後は苦しみだけではなかった。楽しかった。明るかった。美味しかった。柔らかだった。温かった。そんな風に思ってくれてたらいいな。そうして、安心のうちに死ねたのならいいな。
勝手に言葉が持ち上がる。けど、そんな言葉は欺瞞だ。そんなフィクションはいらない。彼女の死は、彼女だけのものだ。生がままならなかったのなら、そりゃ当然そのくらいはな。あーあ、救われようとするなよ、自分。
ヒトミさんみたいな人はどのくらいいるだろう。ヒトミさんほどでなくても、彼女のように生を搾取され、支配されている人は。程度問題だけど、ほとんどの人がそうだろう。
俺はそんな人々の生を奪い、なおかつ死も奪ったのかもしれない。
だって、最後だって自覚させることもなく、消したんだから。
「けど、それでも俺は正しいことをした」
言葉にして言ってみた。
「そりゃ、無理か、いくらなんでも」
けど、すぐに自分の声に打ち消された。いや、これは本当に自分の声なのか?くだらねえスーパーエゴが発した声じゃないのか?なんてくだらねえ思考が頭をぐるぐる回りそうになる。
「まぁ、どうでもいいじゃねえか。俺はやることやるぜ、とりあえず」
埋め終わって、祈る神もいないから、やさしく土をスコップで撫でた。この下にヒトミさんがいる。
それまで見ていたハナさんが、しゃがんで土をその手で撫でた。何度も、何度も。
その小さな背中を後ろから見て、俺はふとスコップでこの人のドタマをかち割ったらどうなるんだろう?と頭を過ぎった。けど、過ぎっただけだ。こういうことって、普通に誰もが頭を過ぎることだ。
「ねー、地獄とかって、あるのかな?」
ハナさんは答えなかった。
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