第21話 ククク
「あーあ、恋してえなぁ」
それを言ったのは、人間社会に関わった動物たちは、なにやら良きに図らうということで決まったとの情報が入って、五分後くらいのことだった。
「手術中とかそういうのも?」
「ええ、局所的巻き戻しを行うそうです」
よくはわからないが、まぁ、大丈夫そうだ。そして、やることはなくなった。いよいよ、世界が終わる日に何をする?状態に入ったわけだ。
「恋、したいなぁ」
どうにも隣にいるはずなのに無反応だったので、ハナさんに向かってもう一度言ってみた。
すると、こちらの方をジト目で見て、心底呆れたような表情をしてみせた。たまらないね。
「馬鹿ですか?」
「馬鹿です。馬鹿です。あなたの魅力にかかれば、僕は簡単に馬鹿になってしまうんです。普段はアレですよ?もっとアレです」
「もっと馬鹿?」
「くくく、たはっー、参りましたね。馬鹿は馬鹿でもアレですよ?真剣ですよ、この恋に」
コ・イ・にと指を振って言ったら、指をつかんで折ってきそうな動きを見せたので、慌てて手をグーの形にした。
「にひひ」
「はっーあ」
盛大にため息をつかれた。
「本当に人間は節操のない生き物ですねぇ。だからいつでも発情可能なんですかね?」
「きっといつでも恋をするためさ」
「では、性欲と共に恋というものも増進したり減退していくものなんですか?」
「一般的にはそうかもしれないけど、一概にはそうとも言えないかな。子どもだけども恋心を抱いたり、老人になっても恋することはあるさ」
「そこのところがよくわからないですね。性欲が無くて、生殖行為を行う必要がないのなら、恋をする必要もないじゃないですか」
「いやいや、生殖行為のためだけに恋をするわけじゃないからね」
いきなりホテルに行ったことを思い出す。そういう感じだから、いきなりホテルだったのか。
「では何のために?一時の快楽のためですか?」
「えっーと、正直それもある。てゆーか、かなりでかいかも」
「正直でたいへんよろしいですね」
「えへへ、ありがとうございます」
「褒めてないです。本当にセックスしたいなら、甘い言葉をいくらでも吐いて、上手くコトを進めるべきでしょう。違いますか?」
「あ~、参ったね。ふふっ、俺はどうにも君に参りっぱなしだね。はーな♡」
「まじ、顔に風穴開けますよ?」
かつてない力で握りこぶしが握られていた。石炭を握っていたら、ダイヤモンドになってただろう。
「ひー、すいません!許してください。悪気はないんです。下心はあっても、悪気はないっす」
「正直が美徳とは限りませんよ」
呆れた顔でハナさんはこちらを見て、一瞬の間の後に鼻からフンッと息を吐き、少しだけ笑った。
「あっ、笑いましたね!」
「笑ってません」
「えー、ホントかなぁ〜」
「本当にウザいですね。あなた、どうやったらそれで女性にモテると思えるんですか?」
「ふっぅ〜、辛辣ぅ〜」
「そもそもどうやったら、今から恋をはじめられるって思うんですか?そこが不思議です」
「えっと、それは、つまり、俺がどうしてハナさんと恋仲になれると思ったのか?そういうことですか?」
「そうです。なんで聞き直したんですか?あと、ついでに言えば、今、この状況で、なんでいきなり恋なんてものに思い至るんですか?」
言外にアホなの?という声が木霊している。
「まぁまぁまぁ、皆まで言うなってことですよ。恋なんてものは、アレですよ?別にいつ何時始めたっていいんですよ。暇さえあればしたらいいんですよ」
「へー」
「ちなみにアレですよ。今、まさに私とあなたは恋の途上にいますよ?」
「はぁ?」
「もちろん、この恋が実るかどうかはわかりません。神のみぞ知るですよ。でも、恋ってのは、いつから始まってるかなんてわからないものなんですよ。恋仲にはなれなくとも、恋は恋ですよ。そうです!別にセックスなんて出来なくていいんですよ!」
「ホントですかぁ?」
「・・・スイマセン、少しだけ嘘でしたね」
また少しだけ時が止まって、それから今度は彼女は声を出して笑った。クックック、という感じだった。
「えっ、なにその宇宙人感」
「はぁ?うるさいよ」
軽く腕を殴られた。宇宙人感はちょっと恥ずかしいポイントらしい。方言みたいなもんか?それにしても腕を軽く殴られたのは、正直うれしかった。
「ちょっと今恋人っぽくないっすか?」
「はぁ?」
また軽く殴られた。今度はさっきより強めだった。
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