第13話 サヨナラ人類

人類は消えた。分子に還った。


これで本当の平和が訪れた。不幸は無くなった。


地球は救われた。


けど、俺は生きていた。


「ん?」


あれ?おかしいぞ。俺も消えるはずだろ。人間なんだから。それとも人間じゃなかったのか。んな馬鹿な。


「あっ、設定間違えた」


彼女が言った。いつになく驚いたような顔をしていた。といっても、少し目が見開かれた程度だったが。


「どゆこと?」

「地球及び、地球の周りにいる人類に設定してたから、ここはその圏外でした」

「ええ」

「ごめんなさい」


頭を下げられた。


男を見ると、あーあ、という顔をして天を仰いでいる。


「えっ?今から無理なんですか?」

「無理ですね。これはそれなりの力と特別な権限のもとに行われていますから」

「そうですか」


参った。すべての人間というから、当然自分も消えるものと思っていたのに。だから押したのに。


「えっー、どうしよっか」


結構途方に暮れた。


けど、まぁ、いいか。


クソゲーは消えた。バグが一片残ったところでどうでもいいだろ。


「申請しました。地球時間で一日後に、あなたも分子に還ります」


彼女は目を見開いたまま言った。目の前で突っ立っているだけではなかったらしい。その頭の中ではいろいろやってたようだ。


「あっ、そうですか。わかりました」


一日後、俺も消えることが決定した。


「あっ、思いつきなんですけど、地球に戻れますか?」

「戻れますよ」


男が口を挟んだ。


「誰も同族がいないのに戻ってどうするんだ?」

「誰もいないから、戻ってみたいんだ」


歪んでない世界を見てみたい。こんな欲望があったのかと驚く反面、ずっと求めていた気もする。これが一番欲しいもので、ずっと手に入らなかったものなのかもしれない。


「じゃあ、行きますか」


彼女がそう言うと、もう視界は切り替わっていた。


「うおっ」


なぜか足がもつれて腰が砕けた。突然の情報変化に体がびっくりしたらしい。


「ここは」


そこは俺と彼女がさっきまでいたラブホテルだった。

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