第12話ポチッとな
なるほど。だいたいの事態は飲み込めた。
つまり、めちゃくちゃめんどくせーことに巻き込まれてるってことだ。
「まっ、いっか」
俺は前向きに考えることにした。なにせ、今の世の中なんでも前向きに考えろって教えられてるもんな。じゃあ、その通りにしたろ。
でも、一応気を使うか。
「これって、人間以外は大丈夫なの?」
核ミサイルドーンとかなら、他の生き物にも迷惑だもんな。
「人間だけが分子に分解されます」
「ふーん、それって痛みはあるの?」
「ありません。また、一瞬です」
この目の前にあるチープな赤いボタンを押せば、人間全員がバラバラに分子レベルにまで分解される。痛みもなく、一瞬で、他の生物に迷惑をかけることもなく。
「なるほど、そりゃイイ話だね」
心からそう思った。
もしかしたら、人類史以来、もっとも善いことをするチャンスなんじゃないか。
人がいなくなるのは、地球の他の生物や環境からしたら、善いことなのは論を俟たない。
しかも、人類は肉体的にも精神的にも苦痛なく、消えることができる。本当ならこんだけ借金こさえたら、それなりの苦痛をペイしなきゃ不公平というものだ。
でも、それを支払わずに帳消しにするチャンス。そうとらえることはできないだろうか。
できそうな気がするな、個人的には。
まるで、バグを一気にデリートするみたいにいっちまおう。
多分、どんな聖人、偉人よりも素晴らしいことだ。人類史には残らないけど。
ただ、一個だけ問題があった。
「俺だけが自覚してんだな」
こえー。そう考えるとこえーかも。俺だけがこのボタンの存在を知ってる人間で、それを押す人間で、本当に俺の指に全人類のすべてはかかっている。きっと、核ミサイルのボタン持っている人もこんな気分だったのかも。近そう。
けど、すぐにこうも思う。全人類のすべてよりも、全生物のすべてだよね。
やっぱり押しま〜す。
ポチッとな。
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