第7話 ホットパンツ

 どうしたことだってばよ?


 俺は自分の行動に驚いていた。なんで俺を殴ったトンカチ男なんか追ってるんだ?隣に彼女がいるのでもないのに。なんだ?警察に報せた方がいいのでは?


 当然の疑問が浮かぶけど、足は進む。いぶかりながら、こっそり男の後をつけた。


 もしかしたら彼女に会えるかもしれない。会ったところでどうにもなるわけもないのはわかってる。俺はそこまで狂ってない。はずなのに。


 やがて男は寂れたビルの地下階段を降りていった。どうやら喫茶店らしい。俺は少し間を開けて、財布の中身を確認してから、喫茶店に入った。


 喫茶店はなんか高級そうだった。革張りのソファ、深い絨毯が靴を包む。


「お好きな席へどうぞ」


 なぜか際どいホットパンツとロングのストッキング、短いエプロンで武装したウェイトレスが居て、笑顔で教えてくれた。店長の趣味か?やるやないけ。しかも、結構かわいい。アイメイクが暗くて病んでるみたいだけど。


マジか。席について驚いた。メニュー表には一杯三千円のコーヒーらしきものがあった。


 本当にコーヒーか?と驚くが、コーヒーの列に入っているので、そうなのだろう。俺は一番安い一杯八百円のブレンドを頼んだ。それでも正直痛かった。余裕で一日分以上の食費が飛んだ。


 何をやっているのか。ついまた自問したくなるけど、今はとにかく余計な思考はシャットダウン。


 視界の隅にトンカチ男の大きい背中が見える。今思えば高そうな革ジャンを来ている。真っ黒で鈍い光沢がある。合成皮革じゃなさそうだ。知らんけど。


 なるほどな。


 なんとなくわかった気がした。あんな可憐な女の子がなんでこんないかつい男に付き従ってるのか。そりゃそうだよな。金だよな、やっぱり。


 一気に絶望的な気分になった。


 まぁ、多分顔もいいのだろう。グラサンしてるからよくわかんないけど、鼻とか高いし。暴力的なところだって、見方を変えればワイルドで男らしいという女はいるだろう。何時代?という気もするが、まぁ、結局そういうのモテるもんな。


 対して俺はナヨナヨした骨格と、背は低いし、金だって当たり前にない。


 帰ろう。このコーヒーをブラックのまま飲んで、忘れない苦味を背負って帰ろう。


 そう思った。糧になるのかは、またまた知らないですけど。


 でも、彼女が来た。


 そして、彼女はあのウェイトレスの格好をしていた。

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