教義を確立しよう!

14. ヤるしかない


「ということで新里真夜が側近になった」

「ご感想は?」

「キメエ」


 早朝。新里さんがまだ登校していないのをしっかり確認した上で(嘘の登校時間を伝え対策済み)、昨日の出来事を洗いざらいツカちゃんにぶちまけてみた。なんでも話を聞いてくれる友人、大切にしたい。


「そういう子には見えねえけどなぁ……言い方悪いけど、ちょっと頭おかしいんじゃねえか?」

「うん」

「否定してやれよ」

「ン拒否するゥ」


 一晩ぐっすり寝たところで、あの狂気に満ちた笑顔を忘れることなど出来やしない。


 もう修復不可能だ。完全に『救世主ヤギ』を心の底から妄信してしまっている。何故かどうして。だがしかし、俺が蒔いた種だ。


 まさか小瓶に入れて持ち歩いているとは思わないだろう。なんにせよ新里さんは、俺の示した『側近としての条件』を満たしてしまった。


「無駄にファン歴だけは長いけど本人からは嫌われていて、リプライ返さないと運営にクレーム付ける古参地下アイドルオタクみたいだな」

「考え得る限り最悪の例えをありがとう」

「つまりだな裕貴。あの手のタイプはほったらかすと更に暴走するわけだ。距離感を履き違えている。側近に置いたのは失敗だったな」

「ファン代表気取ってライブで自治厨みたいなこと始めて他のファンからも嫌われると」

「詳しいな」

「去年のキミだよ」


 無名アイドルはファンに飢えているから熱烈に応援すれば異性として意識してくれる、というとんでも理論を振りかざしSNSで張り切った結果、ライブを出禁になったツカちゃんの有難い格言だ。童貞を拗らせるとこういうことになる。


 だがこの理論は新里真夜にも当てはまる。


 幸いブルーメェ~ソンの信者は彼女一人だけ。他の信者が存在しない以上、状況はやや異なるが……。


「調子に乗って『ブルーメェ~ソン布教のために』とか言って余計なこと始めたら、評判ガタ落ちだぜ。ただでさえ宗教信じてる奴なんか少ないってのに」

「英語科のケビン先生はカトリック系の信者だけど、生徒では聞いたこと無いな……」


 うぅっ、どうしてこんなことに……俺はただ宗教の名を借りて新里さんみたいな美少女とイチャイチャしたいだけだったのに……! 


「こうなったら徹底的に新里さんを管理するんだよ。学校ではなるべく普通の生徒を演じて貰って、常軌を逸した執着心はブルーメェ~ソンの活動……お前と新里さん、二人だけの世界に留まらせるんだ」

「……でも、どうやって?」

「簡単さ。都合の良いルールを作れば良い」


 都合の良いルール?


「所詮は素人がでっち上げたエセ教団。他の有名な宗教を参考にする必要は無い」

「独自の教義を確立するってわけか」

「そうだ。おいそれと外部に言い触らしてはいけないとか、ブルーメェ~ソンの名前を出してはいけないとか、それだけでも抑止力になるんじゃないか?」

「なるほどっ……!」


 もはや彼女と縁を切ることは不可能。

 こちらから距離を置いても、信仰は抑えられない。


 ともすれば、俺に出来ることは『学校生活でボロを出さないようコントロールする』以外に無い。


 新里真夜の健全な高校生活は教祖の一手に掛かっている、ということか……。


「裕貴、初心に帰るんだ。思い出せよ、俺たちが宗教なんてモン始めた理由……!」

「…………彼女が欲しい?」

「まだあるだろうがッ!」

「……童貞を捨てたい!!」

「こんな教義はどうだ? 『信者は週に一回、教祖とセックスを行うのが義務である』……お前次第でどうにでもなるぞ!」

「お手軽性奴隷肉便器の誕生だ!!」

「流石は裕貴! 遠慮がねえっ!!」


 響き渡るハイタッチ。

 教室に誰も居なくて良かった。


 盲点だった。あれだけ救世主ヤギ(の生まれ変わりである俺)を妄信しているなら、もっともっと理不尽な命令を下しても受け入れてくれる筈。


 それが例え、倫理観ゼロの最低最悪な教義だったとしても……今の新里真夜なら、なんの躊躇いもなく忠実に実行してくれる!


 だって足の爪集めて喜んでるんだもの!

 処女くらいサクッと渡してくれらァ!!


「お前の青春まだまだ捨てたもんじゃないぜ……! ただの彼女なら、新里さんに拘る必要も無い! だがしかし、お手軽性奴隷肉便器になってくれるのは新里さんだけだッ……!」

「ツカちゃん……お前天才かよ……ッ!!」


 最高の友人を持てたことに感謝。


 歓喜に打ち震える右手を、ツカちゃんは優しくも力強く握り締める。

 この日交わした握手を俺は生涯忘れない。最近生涯忘れたくない出来事ばっかりだ。


「そうと決まれば裕貴。まずは教団のルールもとい、教義を考えよう。なるべく裕貴にとって都合の良い、穴の無い完璧な教義を……!」

「あぁ、作ってやるさ。理想の信者、ジャストフィットの完璧なオナホールをな!」

「それは身体の相性次第だけどな!」

「待ってろ新里真夜!! 貴様の処女穴は俺のものだァァァァーーッッ!!」

「ヒューッ! 朝六時半の教室で性奴隷宣言ブッ放した奴はお前が人類初だぜ裕貴ッ!!」


 やってやる!! 完璧な教祖を演じてやる!!

 なにはともあれセックスだ!!!!


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