15. 多少の犠牲は必要です
「青柳くん、焼きそばパン買って来たよっ!」
「ありがとう。早かったね、購買いっつもクソみたいに混んでるのに」
「へへへっ……一年のときにバレー部の先輩のパシリ頑張ったから、鍛えられたのかなっ?」
かなっ? じゃねえよ。
可愛い子ぶんな。たかが信者が。
昼休み。俺は早速行動に出た。
というより、出ざるを得なかった。
学校で無闇に声を掛けてはならないというルールこそ守ってはいたが、授業中からずっと俺のことを凝視していて、他の連中から嫌疑を掛けられるのも時間の問題だったからだ。
チャイムと同時に慌てて中庭へ連れ出した。
校舎に囲まれるように設けられた芝生の広場。
老朽化の激しいウッドテーブルは生徒たちの憩いの場として今日も機能して、いない。メチャクチャ虫が出るのだ。誰も寄り付かない。
「それで……今日はどうしたの? あっ、もしかして、わたしのために説法を説いてくれるの!?」
「まぁそんなところだね」
焼きそばパンに練乳をブチ撒けかぶり付く。大照りの太陽にも劣らぬキラっキラの瞳を肴に、俺はツカちゃんと話し合い決めた『ブルーメェ~ソンの教義』を思い出していた。
「良いかい新里さん。キミは教祖の側近として認められたわけだけれど、その地位に甘んじて日々の修行を怠るようではいけない。毎日が試練なんだ」
「しっ、修行……! それはどのような!?」
「今からブルーメェ~ソンの教義と、それに起因する修行の方法を伝える。これを毎日欠かさずこなすこと。達成出来なかったら破門するからね」
「はっ、はいっ! 気を付けますっ!」
凄いよなあ。真っ直ぐな瞳で。
普通に嬉しくなっちゃうから困る。泣きてえ。
さて本題。現状、彼女にとって救世主ヤギとは、信仰の対象というよりかは『物凄く有難い存在』という域を出ていないように思う。
つまり、ブルーメェ~ソンへの執着はそれほどではない。強固な関係性を作り出すには、教祖個人ではなく、宗教そのものへの依存度を高めることが重要。
と、ツカちゃんが言っていた。
ウィキで調べていた。確かな情報だ。
そこで重要なのが教義。
教義とは曰く、宗教の教えを体系化したもの。これに則って物事を理解したり、判断する助けとなるものとされる。情報源はウィキ。確かな情報だ。
この教義なるものによって、新里さんの日常生活における行動指針は完全に縛り付けられる。
そしてその教義は、俺が好き勝手自由に決めて良い。だって教祖だもの。
(慌てるな……いきなり『俺とセックスしろ。処女寄越せ。それがルールだ』なんて言い出したら、流石の新里さんでも拒絶反応を示すに違いない……)
一応にも華の女子高生だ。
ある程度の貞操観念は持ち合わせている筈。
まずは軽めのジャブから。
徐々に、徐々に染め上げていく……ッ!
(まっ、面と向かってセックスさせろって言うのが恥ずかしいだけなんですけどね!!)
黙り込んでしまった俺を不思議そうに見つめる新里さん。一見クールな顔立ちと雰囲気だが、この絶妙に隙がある感じ、すっごく良い。タイプだ。可愛い。
クソ。そうだ、可愛いのだ。
照れちゃう。普通に。童貞だもの。
頑張れ教祖! 負けるな教祖!!
「ンンッ! えー、その……そう、教義、教義だ。SNSの投稿にこうあったね。『すべて重荷を負うて苦労している者は、わたしのもとにきなさい。あなたがたを休ませてあげよう』……これはつまり、どういうことか分かるかな?」
「……誰でも入信できる、ってこと?」
「いや違う。『すべて重荷を負うて苦労している者』とは、悩み苦しんでいる女性のこと。それも己の顔面偏差値の高さ故に、苦労の多い美少女のことだ」
「そうだったの!?」
否。紛うこと無き曲解。
聖書書いた人に助走着けて殴られろ。
「ブルーメェ~ソンを布教したいのなら、困っている可愛い女の子だけに声を掛けるんだよ。『美少女を救済する』『救済は救世主ヤギの手により行われる』『イケメン断じて許すまじ』、この三つはブルーメェ~ソンの柱とも呼べる教義だ」
「なっ、なるほど……」
「ざまぁ系、NTR、バッドエンド、負けヒロインの存在を一切認めない。これもブルーメェ~ソンの根底と言っても良い重要な教義だ。良いね?」
「わっ、分かりました……ッ!」
何故ラノベの主人公はわざわざヒロインを取捨選択するんだろう。たかがラノベが気取りやがって。
全員のケツ並べて味比べする作品とか無いかな。ツカちゃんに聞いてみよ。
「そして修行方法。これは云うならば……犠牲を払うということだ」
「犠牲を払う……?」
「教祖である俺により献身的に尽くせば尽くすほど、大いなる救いが与えられる。言っただろう? 教祖は信者の良き友だって。信仰を集めることで、俺自身も救われたいのさ」
「なるほどっ……ギブアンドテイクだねっ!」
そうだね。ギブミー処女ってことだね。
むしろテイクして欲しい。襲われたい。
「新里さん。俺が求めているものが何か分かる?」
「……青柳くんの求めていること?」
「ああ。俺は教祖として、新里さんを更なる幸福へ導きたい。その為には、新里さんの献身が必要だ。さあ最初の修行だよ。キミは教祖の幸福の為に、どんなものを差し出せる……?」
「……わたしが、差し出せるもの……っ」
ほらほら。考えるまでもないだろ!
処女だよ!! キミの尊い純潔だよ!!
処女あげますって言え!! はよ!!
「…………じゃあ、取りあえずこれを……っ!」
「……んっ?」
おもむろに靴を脱ぎソックスを滑らせる。
差し出された両脚のソックス。
女子高生のソックス。
ホカホカのソックス。
セックスじゃなくて、ソックス。
…………なるほどなぁ~~。
「分かりました……これから毎日、わたしの
「…………うん。ありがとう」
「わたしの大切な
キュッと目を瞑り赤面する。
恥ずかしいの耐えて頑張ってくれたんだな。
俺が喜ぶ
まぁ、いっか。
これはこれで嬉しい。
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