2. そうだ、宗教作ろう(後)


 ……と、張り切っていたのは最初の一週間だけ。

 速攻飽きた。全然フォロワー増えんし。


 クラスメイトに『宗教作ったわ〜』みたいな話はしていたけれど『相変わらずバカやってるなお前ら』とまったく相手にされなかった。


 女子からも冷たい視線を浴びる始末。まだ五月中旬なのに、童貞バカキャラポジション確立しちゃった。二年になったばっかなのに。泣きそう。



 という具合で、一か月も経てばエセ宗教ごっこも作ったまま放置していたアカウントのことも、すっかり忘れてしまっていた。


 例のテロ事件も遠い海外での話、とっくに風化している。そんなある日。


「あれ……?」

「どしたん?」

「フォロワーがいる」

「なんの?」

「ブルーメェ~ソン」


 またも昼休み。


 SNSを流し見していると、ブルーメェ~ソンのアカウントに一人だけフォロワーがいることに気が付いた。

 他にも使ってないアカウントが死ぬほどあるから、埋もれていたのだ。


「うわっ、懐かし。まだ消してなかったの?」

「いやもう、記憶の片隅にさえ居なかったわ。そっちはザ・バレーだっけ? どうなった?」

「あー、最初は結構良い感じだったんだけどなー。クラスの奴に無理やりフォローさせてたし」

「駄目だなツカちゃんは。もっとターゲットを激選しないと。俺は自分から誰もフォローせず自然と集まるのを待ってたぞ」

「結果忘れてちゃ意味無くね?」

「それな」


 アカウントを放置して暫く経っていたから、存在にさえ気付いていなかった。

 ツカちゃんの『ザ・バレー』もクラスメイトが面白半分でフォローしただけで、残念ながら宗教革命とは行かなかったようだ。


 というか誰だろう。フォローしてくれたの。


 俺はクラスメイトに『宗教始めた』と言っただけでアカウントの存在は教えていないし。

 唯一のフォロワー『マヤ』なるアカウントを軽く調べてみる。フォローは十数人か。誰かのリア垢とかそんな感じだろうか?


「……ブルーメェ~ソンの話ばっかりしてるな」

「だよね? そうだよね?」

「マジで教祖扱いじゃん。こわ」


 ツカちゃんはちょっと引いた様子で呟く。

 

 そう。スクロールしてみると、この『マヤ』というアカウント。少し前からブルーメェ~ソンに関する呟きばかりなのだ。



『教祖様のお言葉はどれも身に染みる』

『入信してから良いこと続きだ』

『もっとみんなに広めないと』

『教祖様のためなら身を投げ出す覚悟』



 ……エライ熱の入れようだ。

 確かにちょっと怖い。狂気染みている。


 そりゃまぁ、アカウントを作った頃は、聖書から引用したそれっぽい格言をまぁまぁな頻度で呟いたり、活動報告と称した放課後遊びに行ったときの写真をアップしたり、色々とやってみてはいたけれど。


 でも、それだけだぞ。言ってしまえばただのネタ垢だぞ。なのに本気でブルーメェ~ソンの虜になったとでも? そんな馬鹿な話が……。


裕貴ユーキ、これ……!?」

「『私の推理が正しければ、教祖様はすぐ近くにいらっしゃるかもしれない。可能な限り早く説法をいただきたいが、そんな勇気は出ない。もう少し証拠を集めてからでも遅くはない筈』…………近く?」


 ツカちゃんと顔を見合わせる。

 このアカウントの主が、俺たちのすぐ傍にいる?


「…………なぁ。このマヤって人さ……」

「あぁ。同じこと考えてた」

「いるよな、マヤ……」

「いるな……そう言えば」


 一人だけ心当たりがある。


 新里真夜ニイザトマヤ。クラスメイトの女の子だ。それも大変な美少女であり、恐らくクラスの男子ほとんどが彼女に好意的である。


 新里さんならお昼はいつも教室の真ん中で、仲の良い女子たちとお喋りしていて、なんなら割とすぐ近くにいるけれど……。



「………………」



 なんか、メッチャこっち見てるんですけど。

 眼孔バッキバキなんですけど。怖い。


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