6. 今こそ真の力をお見せしよう


「脱臼ですね~。少し様子見ましょうか~」


 入院することになった。手術らしい手術もなく、幸い一週間足らずで退院出来る程度の軽い怪我らしい。


 仕事を抜け出して来た両親はベッドへ横たわる俺を見て大層心配していたが、思いのほか大した怪我ではなかったこと。


 また同級生の女の子を助けたという状況込みで『貴重な経験だな(ね)!』と茶化すだけ茶化してすぐ帰って行った。ちょっと悲しかった。


 ツカちゃんも病室を訪れたが、が席を外していたこともあり『なに怪我しとんねーん』と労わりの言葉さえ掛けず五分で帰った。悲しかった。



「取りあえず、雑誌と小説と、お菓子と、あとこれゲーム機! モモテツしか持ってないんですけど、暇潰しにはなると思うので……!」

「うん。ありがとう」

「100年モードの半分くらいまで進めてて、もう物件全部購入してるし、あとは豪遊するだけなので!」


 もうやること全部終わってるじゃん。

 だったら新しいデータ作るよ。


 一度自宅へ戻ったと思ったら、大量の見舞い品を持って再び現れた新里さん。そろそろ夕食の時間だが、今度は一向に帰る気配が無い。


 彼女も診て貰ったらしいが、これといった外傷も無かったようだ。右腕をガッチガチに固定され動かせない俺とは雲泥の差。片手でゲームはシンドイ。本も読み辛い。もっと考えて差し入れして欲しかった。


「もう遅いし、そろそろ帰りなよ」

「いけません!! あろうことか教祖様にお怪我をさせるなんて、罰当たりなこと……せめてお傍でお世話させていただかなければ、わたしの罪が赦されることは……っ!」

「いちいち土下座せんでくれる? ねえ?」


 さっきからずっとこんな調子。

 一言交わすたびに平伏している。


 非常に不味い流れだ。自業自得、自作自演の副産物とはいえ、俺が新里さんの命を救ったこと自体は事実になってしまった。


 この一点で、新里さんの俺へ対する評価は完全に固まってしまっている。セルフ洗脳状態。


「本当にさ……宗教とか教祖とか、そういうのやめようって。偶々俺の言っていたことが都合よく当たったのかもしれないけれど……そんなの偶然、奇跡が重なっただけだって」

「……嘘ですッ!」


 全否定される。

 教祖のお言葉だぞ。仮にも。


 目をかっ開き拳を力強くギュッと握る。

 なにが貴方をそこまで駆り立てるんだ。怖い。


「身の回りで起こった数々の奇跡。そして今日、命までお救いいただいたという疑いようの無い事実……! 他に説明が付きません!」

「説明付くって。全然余裕で。他の路線探ろうよ」

「でもっ、教祖様じゃないですか! ブルーメェ~ソンの! それも本当のことですっ!」

「いやだからね」


 何度も言うように、というかわざわざ説明するまでも無い話なのだが、おふざけのエセ宗教だ。教祖を名乗れるような超能的な力は俺には無い。


「あのね新里さん。宗教を開くのも、教祖を名乗るのも、誰にでも出来ることなんだよ。ツカちゃんも一応教祖だし。俺はそんな特別な存在じゃない。言ったもん勝ちなんだって」

「……それは、そうかもですけど……っ」


 あれ。納得し掛けてる。

 やっぱり頭か何処か打ったのか。

 そして行いのキモさに気付いたか?


「……確かに教祖様は、まだ宗教を開いたというだけで……力を信じているのもわたしだけ」

「うんうん。その通りだ」

「でも、教祖様には……青柳くんには、本当にそういう力があるんだよ! 谷塚くんじゃなくて、青柳くんであることが重要なんだと思う! 思いますっ!」


 勝手に教祖失格扱いされるツカちゃん。可哀そう。でももっと可哀そうなのは新里さんだ。その現実的な視野がどうして俺相手にだけ機能しない?


「きっと青柳くんが自覚していないだけで、特別な才能があるんだよっ! そうに違いない!」

「特別な才能って……」

「じゃあ証明してあげる! 例えば……そう、今日の夜ご飯! なにが出て来ると思うっ?」

「……晩ご飯? まぁ、そりゃ病院食なんだから、カロリーの低い魚料理とか……」


 扉がノックされ看護師さんが現れる。

 ちょうど夕食の時間だったようだ。


「お待たせしました~お夕食ですよ~」

「…………白身魚だっ!?」


 俺より先に反応するものだから、看護師さんも驚いてトレーを落とし掛ける。

 あまりの異様な雰囲気に、トレーを置くや否やそさくさと病室から出て行ってしまった。


「当たった! 当たったよっ!」

「そんなもんでしょ病院食なんだから」

「じゃあ、じゃあ次っ! 今からテレビ点けるから、なんの番組やってるから当ててみてっ!」


 備え付けの小型テレビを指差す新里さん。

 なんだかクイズ番組みたいになって来た。


 えーっと、まだ七時前だから……バラエティー番組はもうちょっと後の時間帯だろ。

 今はニュースだよな。よし、なら敢えてバラエティー番組と答えれば……。


「なんかよく分からんクイズ番組」

「じゃあ、点けるよ……っ!?」


 勝手にリモコンを操作し電源イン。

 課金式だから点けた瞬間お金掛かるのに。



『新番組! クイズ、このヒヨコ、雄と雌どっち!? 初回三時間スペシャル!』



 ……………………



「ま、また当たった……ッ!?」

「そんな馬鹿な」


 口元を手で抑え驚嘆する新里さん。


 なんでこんな時に限って枠拡大してんだよ。

 あとなんだよそのクソつまらなさそうな番組。

 ヒヨコの見分け方で三時間持つのかよ。


「やっ、やっぱり本物だ……本物なんだっ……!」


 だからと言ってそうもならんとは思うけどね?

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