玉葉物語

皇室ならではの高い複雑性を有する体系のうちに在る、他の国家王室にはないであろう、はんなりとした繊細で雅な質感、壮麗にして神木の如き威厳に満ちたあらゆる歴史的背景、これらから来る圧倒的な知識量と理論を、匂やかな文体で詩を綴るかのように、小川の水がさらさらと流れ行くように軽やかに書き上げた作風が、美的感覚を研ぎ澄ます鬼才的な作品です。

真珠のような品性に溢れる光沢が輝く世界観を、ぜひご堪能ください。

　皇室が栄えに栄え、皇族が増えすぎてしまった近未来の日本。しかし一方で皇位継承者に恵まれない時期が続いてもいて……それは聡明なる皇太子・允宮（みつのみや）の早すぎる死で、より深刻なものへと成り果せた。なれどその危機を脱し、人々が皇室の先を憂えることをやめた頃、思わぬ皇室スキャンダルが世を騒がせることとなる。

　古式ゆかしく雅な文章で綴られる本作の特徴は、キャラクターを包括した架空王朝そのものが主人公であることです。栄え過ぎて困る、でも天皇の後継者がいなくて困る、後継者の心配がなくなったのに一大事が起きて困る。登場するキャラクターが事件や舞台装置になって、翻弄される王朝の“次”を描いていく物…続きを読む