此は架空王朝の道行きを記した歴史の書にござります

 皇室が栄えに栄え、皇族が増えすぎてしまった近未来の日本。しかし一方で皇位継承者に恵まれない時期が続いてもいて……それは聡明なる皇太子・允宮(みつのみや)の早すぎる死で、より深刻なものへと成り果せた。なれどその危機を脱し、人々が皇室の先を憂えることをやめた頃、思わぬ皇室スキャンダルが世を騒がせることとなる。

 古式ゆかしく雅な文章で綴られる本作の特徴は、キャラクターを包括した架空王朝そのものが主人公であることです。栄え過ぎて困る、でも天皇の後継者がいなくて困る、後継者の心配がなくなったのに一大事が起きて困る。登場するキャラクターが事件や舞台装置になって、翻弄される王朝の“次”を描いていく物語設計、目を惹かれずにいられません。大河ロマンは人を主人公に据えたものを指しますが、本作もまた新たな切り口から綴られた大河ロマンと言えましょう。

 日本という国の歴史と有り様を様式の美をもって表現した意欲作、再開を期待しつつご堪能ください。


(「これぞ王道! 貴種流離譚!」4選/文=高橋 剛)