第407話
「……らしくない」
「すまん……」
やっと落ち着いた正俉。
彼は彼なりに思うところがあったのだろう。が、末端の一兵士にすぎない山中陸士に当たるのはお門違いというものだ。
「今後は、このような事が無いようにする」
「別に……まあ、その方が正俉らしいけど」
俯きから感情を抑え、メガネを触りながら顔を上げた正俉。
普段の真面目モードに戻ったみたい。
これが彼の平常運転と云えるけど、さっき迄の行動は其だけ、今回のNG部隊長の言動が肝に据えかねたんだろう。
でも仕方ない。
これが私達、エスパーを取り巻く何時もの現状とも云えるのだから。
◆
「よおっ」
「山中陸士?!」
医療テントを出ると彼、山中陸士が壁に寄っ掛かりながら待っていた。
ずっと待ってたのかな?
「部隊に戻らなくて大丈夫なんですか?」
「俺はクビだとよ」
「は?」
「理由は命令違反。無断で持ち場を離れた事が理由だと。可笑しいだろ?人命救助を優先するべきNG(ナショナルガード)部隊が嬢ちゃんが向かったのに誰も動かなかったんだぜ?例えエスパーで個人能力が高くともだ」
「……………」
「もっとも、部隊も突然現れたBHCにてんやわんや。おまけに指示を出すべき部隊長は真っ先に逃げ出す始末で、統制も何も無かったがな」
「だとしたら可笑しいです。統制が無い中での話しなら、個人の裁量で現場が動くのは当然の流れ。助けられた私が言う事ではないかも知れませんが、それが何で命令違反になるんです!?」
ふざけた話し、だと思う。
エスパーに対したNG部隊の在り方は今更だけど、中山さんが責を負う理由はまったく無いじゃない。
「部隊に数人の怪我人が出た。ソイツらが逃げ出した部隊長を告発したんだ。だから部隊長は、俺が持ち場を離れた事を理由に全ての責任を俺に擦り付けた。ま、そういう事だ。部隊に死人が出なかったのが、嬢ちゃんのお陰だというのにな」
「理不尽では?抗議するべきです!」
「いい、事実だからな。それより嬢ちゃんの怪我が気になった、って事なんだが」
「……少し、痛みますが問題ありません」
私は腕を動かし自身の状態を再確認した。
若干鈍い痛みと発熱は残るが特に不便を感じない。
全治はまだ掛かるだろうけど、7日後程度には、この鈍い痛みも消えるたろう。
「こんな感じです」
「そうか、なら良かった。それでさっきのメガネ男子」
「メガネ男子、正俉の事ですか?」
「嬢ちゃんの事を凄く心配してた。何しろ3日も目覚めなかったからな。助けた俺も焦ったぞ。医者は極度の疲労としか分からないって言うだけだし」
「3日……」
3日か。
多分ESPの使い過ぎなんだろうけど、昏倒したのは初めて。
そうか。
これが私の限界というものなんだろう。
「まあいい。嬢ちゃんの元気な姿を見れて安心した。これで心置きなく部隊を去れる」
「本当に抗議しないんですか?」
「ああ、今回の事でNG部隊に幻滅した。嬢ちゃんが気に入ったからエスパー部隊に入隊しようと思う」
「え!?」
「冗談だ。エスパーでない俺が入隊しても足手まといだろからな」
ビックリした。
この人、冗談なんか言うんだ。
スポーツ刈りで私の頭二つは高く筋肉質。
見た目は生粋の兵隊さんなのに意外と気さくなのかも知れない。
「まあ、嬢ちゃんが気に病む事はない。俺は元々消防士が希望だった。NG部隊を辞めても下部組織に残る事にはなる。引き続き人助けに関わる仕事をするつもりだ。じゃあな、嬢ちゃん。もう、会う事は無いと思うが」
背を向けて手を振り離れていく山中陸士。
私は、その背が見えなくなるまでお辞儀をした。
消防士、か。
そういえば消えたアイツも、そんな事を言っていた。
本当にアイツ、何処に行ってしまったんだろう………。
「そうだ、二人に会わないと」
私は一緒に救助された茂と依理、二人の事を思いだし、二人の居るであろう医療テントの方向に足を向けて歩き出す。
こうしてまた、一つの任務が終了した。
今回はNG部隊、エスパー部隊それぞれ死者は出ずに済んだ。
BHCに遭遇しながら任務を完了出来、死者が無し。
そういう意味では今回は稀なケースとなるだろう。
死者が無かったのはいい事だ。
いつもこうであればいいのに。
◆◇◇◇◇
◉ナレーター視点
ザーザーザーザーザーザーッ
まるで日光の華厳の滝のようだが、ここは栃木の日光ではない。
周りは樹木に囲まれているが、ここは嘗て富士の樹海と呼ばれた比較的高低差が無かった場所である。
それなのに現在は、日光の華厳の滝を彷彿するような滝があり、その断崖はかなりの範囲に続いている。
その一角。
その断崖を登りきったところ、富士をバックにした場所に塔のような白い建築物がある。
その建築物は塔を中心に円形のドームを形成しており、かなりの巨大な建築物であり、地面にしっかりと地盤を作り、まるで地下に更に施設が続いている様である。
その塔の先端、その窓から下界を見つめる一人の人物の姿があった。
「報告します。日ノ本を包む黒き霧は更に濃度を増しました。それに合わせ、現地人がBHCと呼ぶ猿共の顕現率が高まっております」
その人物にひれ伏し、なにやら報告を入れる目元を隠した白頭巾の女性。
どうやらNGとは違う組織を形成する団体のようだが、ひれ伏す白頭巾の先の人物はだいぶ小さな姿である。
その身長は120センチ台。
全体を白いローブに包み込み、その姿は分からない。
『……因果律に変動があった』
「は?!それでは!!」
『空間座標が近づいている。世界が繋がる……かも知れない』
「待ち望んでいる事が始まるのですか!我らの悲願が」
『……かも知れぬ。じゃが、それは敵もまた同じ』
「まさか?!」
『………………』
小さな指導者?は、それ以上は語らない。
彼?彼女?は空を仰ぎ見、何かに思いを馳せていた。
その視線の先にあるのは幸運か、不幸か。
はたまた厄災か、希望か。
実家召喚 無限飛行 @mugenhikou
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