第2話 召喚
その夜、ボクは警護の兵士の交替の隙に、なんとか屋敷を抜け出した。
今までも、何度か逃げようとしたんだけど、外の事情がわからないし、頼れる宛てもない。
その上、ジニーは何故か針を足の裏側に刺す。
だから、治るまで歩けないし、治る頃にまた、刺されるので逃げられなかった。
それと、ボクはいつも全身を汚して傷が治っている事を覚られないようにしている。
あの二人は、ボクの傷が治っている事を知ると、執拗に暴力を振るうのだ。
それに、このボクの早い回復力はどうもボクだけみたいだ。
前にハンスが落馬事故で足を怪我した時、10日以上、包帯を巻いてたんだ。
やはり、ボクの翌日回復はこの世界でも異常みたいなので、隠している。
どちらにしても、今回は後がない。
幸い、今日のジニーは針刺しは片足だけだった。
なんとか、片足を庇いながら屋敷の外に出る事ができた。
初めての外で正直どうしたらいいか、わからないが、とにかく隠れられるところまで走らないと!
ふと、見ると左手に森が見える。
右手は草原だ。
ボクは、直ぐに森に向かって走り出した。
すると、屋敷の方で何やら騒ぐ声が聞こえる。
不味い、バレた?!
ボクは、必死に森に駆け込んだ。
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◆ヘーゲル視点
「シルビアがいない?どういう事だ?!」
シルビアに食事を運んでいたメイドから、シルビアが居ないとの話を受け私は、激しく叫んだ。
明日、カキオストロ伯爵に売る算段だったのに、商品がなければそれなりの違約金をとられる。
まったく、不味い。
兄のマイヤー▪フォン▪ラーセン男爵に多額の借金があった私は、盗賊を雇いマイヤーを襲わせた。
うまく、マイヤーを殺し、男爵家に入って古くからいた使用人達を辞めさせた。
マイヤーの一人娘のシルビアを孤立させ、折りをみて始末するつもりだった。
だが、妻や息子達の宝石とドレス、社交界でのばらまきで、わずか数年で男爵家の資産を食い潰した私は、再び借金状態になっていた。
そんな中、たまたま借金の督促に来ていた、カキオストロ伯爵が中庭にいたシルビアに惚れ込んだ。
金貨七百枚(1金貨は1万円)で、養女にしたいとの申し出があった。
しかも、借金を帳消しにしてだ。
直ぐに契約書にサインし、手付けとしてすでに金貨三百枚を受け取った。
それで明日、シルビアを送り出せるように、メイドに食事と湯浴みを命じたら、シルビアが居ないとメイドが駆け込んできたのだ。
「全ての使用人、領兵を使いシルビアを捜しだせ、今すぐに!」
「はい!た、ただちに!!」
執事に指示し自身も捜索に加わるべく、私は馬屋に向かった。
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痛い、痛い、苦しい。
もう、走れない。
ボクは、森の中でついに力尽きた。
座りこんだボクは、もう、立ち上がる気力はなかった。
すでに、かなりの近くまで追手の松明が迫っている。
動けないボクが捕まるのは、あと三十分程度か。
はぁ~っ、ボクは、ため息をついた。
もう、いいかな。
この世界に女で転生して、それでも頑張って生きていこう、今世の親の愛は、あまりなかったけど、乳母のゼニスにはそれなりに愛してもらったし、前世の記憶がある自分は前世の親の愛を覚えている。
其だけでも幸せだと、この三年、自分に言い聞かせてきたけれど、また、ここで捕まって苦しい思いをしないといけないなら、もう、耐える自信はない。
ボクは、男爵家から護身用にナイフを持って来ていた。
ボクは、それを首に当て前世の家族の事を思いながら、手に力を込める。
来世は、日本の家族の近くに生まれたい。
あの、高木家に戻りたいよう。
そうしてボクがナイフを引こうとした時、
ピロンッ
機械音のような音がした。
「?!」
突然、視界の片隅に文字が見えた。
❪ステータス画面が開放されました❫
「は?」
なんだ?このまるでラノベみたいな展開は?
ボクは、恐る恐る文字に触るような操作をした。
すると、視界の左下に文字一覧が表示された。
名前◆シルビア▪フォン▪ラーセン
職業◆男爵令嬢 (聖女)
魔力◆ ー
体力◆10
特殊スキル◆異世界品召喚(一回のみ)
は?!、なんだ、これ?
なんか、ゲームみたいな表示が出たんだけど?!
兵士A「いたか?」
兵士B「いや、たぶん、もっと森の奥だ」
◇◇◇
う、兵士達の声?!
「?!や、やばい。何か、ボクがここから助かるスキルとか、ないのか?」
そう思って確認したけど、特殊スキルしかない。
異世界品召喚?前世の世界の品って事かな?
でも、カッコ内に一回のみって書いてある?
え、一回のみ?!
困った、何か説明文とかないのかな。
ボクは、特殊スキルの文字を触ってみた。
ブンッ
すると、また、機械音がして特殊スキルの下に説明文の様な文字が出る?!
特殊スキル◆異世界品召喚(一回のみ)
◇生物▶召喚不可
◇武器▶召喚不可
上記以外の物なら、いかなる異世界品の召喚も可能。
生物、武器不可かぁ、いかなる異世界品って大きさは関係ないのかな?
でも、一回かぁ。
ああ、いいか。
なら、こっちに転生してからずっと食べたいと思っていた日本の食べ物を召喚しよう。
それを食べれば、思い残す事なく逝けるかな。
そうしよう。
そう思って、前世の母の作ったカレーが食べたい、そう、願った。
ブンッ、え?、また、文字が出た?
何々、入れ物ごと、思い描いて下さい?
は?、わかんないな、前世の母がよくカレーを入れた入れ物なんて!
ブンッ、わ、また、出た?!
何々?わからない場合、それが仕舞われている環境を思い描いて下さい?
なんだろう?環境?漠然としすぎて分かりにくいんだけど。
兵士A「おい、こりゃ、足跡だな!子供の」
兵士C「そっちに続いてる、片足をひきずってるな!」
「?!」、あう、だめだ!もう、時間がない。
最期に食べたかったけど、間に合わない。
ボクは、再びナイフを首に当てた。
ブンッ、❪それが仕舞われている環境を思い描いて下さい❫
う、うるさいな、人が覚悟を決めて死のうとしてるのに、理解できないテロップを流さないでよ?!
環境、環境、って、高木家のキッチンは、カウンターキッチンだから、リビングとダイニングになっちゃうじゃないか!
ブンッ、❪分かりました。『高木家のリビングとダイニングが付いている物』を召喚します❫
「え?!」
ピカッ、その瞬間、辺りは目映い光に包まれた。
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