実家召喚

無限飛行

第一章 召喚 編

第1話 ある男爵令嬢

「はははは、良かったな!お前の売り先が決まったぞ」


うう、叔父の息子のハンスがまた、ボクを馬鹿にしに来た。

コイツは、凄く暴力を振るうから大嫌いだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ボクは、ラーセン男爵の1人娘、シルビア▪フォン▪ラーセン、いわゆる男爵令嬢だ。


けれど母はボクを産んで、産後の肥立ちが悪くすぐ他界。

父は先日、馬車で帰宅途中に野盗に襲われ、この世を去った。


すると、すぐに叔父夫婦(自称)が入り込んできて、ボクの後見人を宣言したんだ。

その時のボクの年齢は5歳、確かに後見人は必要だったが、正直、叔父達を知らないし、会ったのは初めてだった。


彼らは、勝手に屋敷に入ってきてすぐに、古くからいた使用人達を辞めさせた。

乳母のゼニスはボクの為に残りたいとして、最期まで抵抗してくれたけど、結局、叔父に追い出された。


その日からボクの部屋は、離れの物置小屋になり、食事は1日一食の黒パンと薄い野菜スープしか貰えなくなった。


しかも、叔父夫婦の子供達が遊びと称して毎日、ボクに暴力を振るうのだ。


だから身体中、いつも生傷が絶えない。


あれから三年、ボクは痩せ衰え、ゼニスが母と同じと絶賛してくれた美しい銀髪は、バサバサの灰色の様、頬は痩け、肌は元々白いのだがさらに白く人形みたい、目だけが母譲りのアイスブルーだ。

ヒビの入った手持ち鏡に映る姿は、さながらゴーストだ。


叔父夫婦の子供は二人、1人はボクより三歳年上の十一歳のハンス。

ボクより一歳年上の、九歳のジニーの兄妹だ。


叔父の家族は遺伝なのか、全員デップリ肥満体だ。


そして、この兄妹、毎日ボクに二人がかりで暴力を振るうのだ。

ハンスは鞭か棒で打ちつけ、ジニーは熱湯と針でボクを痛めつける。

それを毎日、三十分はやられる。

あまりの痛みにいつも悲鳴を上げるが、大人達が助けに来たことはない。


正直、最近の暴力はよく虐待死しないと自分でも思うほど、酷いとおもう。

多分、ボク以外の人間だったら最初の一年間で死んでるだろう。


これを三年耐えたボクは、ようやく自分の異常性に気がついた。


ボクは、二人にどんなに暴力を受けても、翌日に大半の傷が治っているのだ。


原理はわからない、生まれてから屋敷の外に出た事がないので、この世界の常識が足りてない。

言葉や文字は、乳母のゼニスや仕事でほとんどいなかった父の書斎に忍びこんで、独学で学んだ。


そのなかでわかったのは、ボクのいるこの国が君主制であり、アスタイト王国という国らしい。

そして、この世界には魔物と呼ばれる人間を喰らう生き物がおり、魔瘴気とよばれる毒ガスみたいなものが有るらしい。

魔瘴気は、土地を腐らせ魔物を発生させるという。

魔瘴気の発生原因は解ってないが、魔瘴気に侵された森、魔の森が年々広がってきており、土地を追われた難民が王都周辺に集まって貧民街が増えているという。


魔物って、まるでファンタジーな世界の話しに出てくる物だけど、その割りに魔法があるって見たことも聞いたこともない。


赤ん坊の頃は、タイムスリップで中世ヨーロッパの何処かだろうって思ってたけど、魔物やボク自身の異常に気づいてからは、ここは異世界だと認識できた。


そう、ボクには前世の、異世界の記憶がある。


ボクの前世は、日本国のとある都立高校に通う男子高校生だった。

高木 俊、それがボクの前世の名前だ。


高木家は父が都職員で、母が幼稚園教諭、弟が中学生の4人家族だった。

とくに可も不可もなく、ごく普通の家庭。


高木 亮平 四十歳

高木 りか 三十八歳

高木 俊 十五歳

高木 了 十三歳


父も母も特に僕達兄弟に干渉するタイプではなかったが、曲がったことやズルは決して許さなかった。


それに、父も母もボクや弟が小学生の時はいつも一緒に、いろんな所に旅行したり、買い物に出かけたな。

いつも一緒に


パアンッ、「あ、うぐぅ?!」

ドサァっ


「俺様を無視するとは、随分偉くなったな?!」


あうう、頭から血が、い、痛い、コイツ、また、その棒でボクの頭を、後ろから叩いた?!


「なんだ?その反抗的な目は?!俺様を睨むとは、許さん!」

バシッ、「ぐあっ?!」、うう、痛い、痛い、痛い、ハンスが倒れたボクの背中に鞭を入れる。


「この、この、この!ただの居候の癖に、生意気なんだよ、くそガキが」


バシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッ

「っ!、…………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

何時も事だが、ハンスの鞭打ちが始まった。

背中が熱い、痛い、でも、声を出さないように我慢しないと、コイツはボクの悲鳴に愉悦を感じてさらに、エスカレートするからだ。


「はあ、はあ、はあ、はあ、ちっ、こ、此れくらいで許してやる!」


「……………」


ハンスが飽きて離れていく。

背中が焼けるように痛い、いつもアイツは背中の同じ場所を打つ。

だから、ボクのワンピースは背中が破れたままだ。


ジョボッジョボッジョボッ


「?!!!ぎゃあああ!」

「シ、シルビアお嬢様、す、済みませんだ」


「あら、ゴンザ、なにを謝っているの?これは、治療よ。お兄さまが、罰でシルビアを折檻した。でも、それでシルビアが怪我したままじゃ可哀想だから、私があなたに治療を命じたの。だから、シルビアは私達に感謝してるのよ、ね?シルビア」


「………………っ」、ジニーだ!

背中の傷のところに、熱湯をかけられた。

熱い、痛い、痛い、それも、唯一残った前からいる使用人、庭師のゴンザにやらせるなんて、酷い。

ゴンザが、涙目でボクを見てる。


いいよ、ゴンザ。

ゴンザには、五人の幼い兄弟がいる。

それを養う為に、庭師としてここに入った事をボクは知っている。

おそらく、ゴンザは無理やりやらされている。

ゴンザは、大男だが心優しい男でボクが食事を貰えない時に、よく厨房からこっそり食べ物を運んできてくれてた唯一の味方だった。

そんなゴンザに、熱湯をかけさせた?!

なんて、酷いヤツなんだ。


「なんとか言いなさいよ、感謝の言葉は?」

ブツッ

「?!!!ぎゃあ!?!!!」

あ、足の裏側に針をさしやがっ

ブツッ、「返事は?」

「ぎっ!……………あ、有り難う御座いました……」


「ふん、まぁ、いいでしょ。どうせ、あんたは明日にはもう、いないんだし」


「?」


「あら?不思議そうね、お兄さまから聞かなかったのかしら。あなた、カキオストロ伯爵に売られたのよ、良かったわね。やっとここを出られて」


「………」、そういえば、朝、ハンスがなんか言ってたような?


「カキオストロ伯爵は、禿げ頭のジジイだけど、あんたくらいの幼い子が好きなんだって。良かったわね、いっぱい愛して貰えるわ。私は、いやだけど」


それ、ロリコン伯爵では?ボクも嫌だよ!


「でも、お気に入りの魔獣も飼ってるらしくて、気分次第で魔獣の餌にされるらしいから、せいぜい気をつけることね、おーほっほっほ。ゴンザ、いくわよ」


「は、はい、ジニー様、それでは、シルビア様、これで」

「ほら、ゴンザ、早く!」


「は、はい」ザッ、ザッ、ザッ、ザッ




「………」

死にたくない、早く逃げ出さないと!

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