新章▪鎖国日本
第375話 友奈飛鳥
◇飛鳥 視点
ざっざっざっざっざっざっ
はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ
左右に瓦礫が続く、嘗て国道と呼ばれた片側三車線の道。
あれだけ広い道路だった此処も、今では瓦礫で自動車はまともに通行出来ない。
私はその道の機能していない交差点の信号を左に曲がり、旧日の出町のエリアに入る。
この先には旧日の出町の避難所があり、まだ多くの住民が待機しているはずだ。
ジジッ
『
「ええ、今のところは順調。まだ猿とは遭遇してない」
『無理はするな。イザとなったら任務より君の生存を優先してくれ。我々には君を失うのが一番の痛手だ』
「無理はするつもりはないわ。でも任務も投げ出さない。一人でも多くの住民をシェルターに誘導してみせる」
『わかった。早めに防衛隊と合流出来るように取り計らう。本当に無理はするな。また連絡する』
プツンッ
私はスマホを特殊アーマーのポケットに仕舞うと、再び日の出町の奥に向かう。
この特殊アーマー、防弾と衝撃吸収▪背中簡易ブーストバック付きの軽量型。
何故か、女の子仕様は殆どセーラー服似のタイプで本部の趣味を疑うけど、私はついこないだまでセーラー服の学生だったから特に違和感は無い。
現在、あらゆる通信システムは奴らが放つ強力な電磁波の影響で使う事が出来ない。
でも、私のスマホにはカゴ?と呼ばれる力を付与して貰っていて、回りの環境に関係なく繋がる優れ物だ。
ただ、残念なのがインターネットが使えない事。
いわゆる音声通話だけって事で、只の電話機に成り下がってしまった。
計算機とか最低限のアプリは使えるけど何かと不自由になったものだ。
ここは西東京の日の出町。
奥に歩けば、まだ森林地帯が迫る山間部の町だ。昔はキャンプ施設やレジャー関連があったらしいけど私はよく知らない。
キイィ~ッ
「?!」
タッタッタッタッザザッ
突然の甲高い声。
私は瞬時に木の陰に隠れて様子を伺う。
バサッバサバサッ
「……鳥………」
どうやら只の鳥だったようだ。
だが奴らを侮ってはならない。
最近は諜報用の小さな敵性生物も発見されいて、警戒は怠ってはならない。
キュッ
私は乱れた髪を撫で整えてからポニーテールを結び直す。
「ふうっ、森に入れば少しは涼しいかと思ったけど……」
現在、西暦2063年。
予測より早く進んだ地球温暖化は日本の夏を亜熱帯に変えた。
旧来の植物は育たず、この森も半分は枯れ木となってしまっている。
(自業自得……かも知れないけど、それでも私達は生きなければならない)
ふうっ
私は溜め息をつくと、緊急信号の発信された場所に近づく。
この場所にはまだ町民千人余りが居る避難所がある筈。
私は大きく育ったバナナの木を避け、その先にある地下通路の階段を目指す。
この階段が町の地下シェルターに繋がる階段で、緊急信号はここから出ていた。
ただ発信を本部が感知したのは最近。電磁波の合間での傍受は緊急信号の発信時期と必ずしも合致する訳でもない。
下手をすると、発信と傍受の時間差が数日前の可能性もあるのだ。
カタンッカタンッカタンッカタンッ
私は慎重に階段を降りていく。
万が一BHCに遭遇すれば、たちどころに戦闘になる。
奴らは狡猾で素早い。
足場は確実に確保しなければならない。
黒い敵性生物の総称BHC。
一年前に突如現れ人間を次々に襲い、唯々その命を奪っていく謎の生命体。
「まさか、この平和な日本が化け物に脅かされる国になるなんてね……はぁ」
私は一人独り言をいい大きく溜め息をした。
そんな時は、中学時代の幼なじみの声がこだまする。
▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩
(ねぇ了、何を書いてるの?)
(勇者、怪物達から人々を守るヒーローだよ)
(何それ?ゲームの話?)
(んーっ、どうしてもゲームとか、漫画の話になっちゃうよね)
(どうゆう事?)
(何か、よく夢を見るんだけど、とても現実感があるっていうか、まるで僕が勇者だったみたいっていうか……)
(何ソレ、中二病は卒業しなさいよ!)
(あはは、やっぱりそうなるよね)
そう言って彼はスケッチブックを閉じようとする。
(ちょっと、せっかくだから見せてよ)
バッ
(あ、飛鳥!?)
そこには、青く輝く剣を持った外国人風の絵があった。
(へぇ~、上手じゃない。将来は漫画家を目指すの?)
(返してくれよ!)
(いいじゃない、減るもんじゃないしっ!?)
バサッ
落としたスケッチブック。
弾みで次のページを開いていた。
(これは?)
(ああ~っ、仕方ないなぁ)
(ねぇ、その黒いのは何??)
了は私の質問に答ずスケッチブックを拾うと、それをバックに入れてしまった。
(ねぇってば、了!)
(何だよ、もういいだろ。スケッチは僕の趣味。夢とか関係ないから)
(そうじゃなくって!)
(ああ~?何なの、もう)
(さっきの黒いの何?)
(っ、敵だよ)
(敵?)
(勇者の敵、モンスターかな。何かこう、黒くて猿みたいなのがいっぱい襲ってくる。それをやっつけるのが、勇者)
(何か怖かった……)
(夢、空想だから大丈夫だよ。そういえば飛鳥って、お化けとか苦手だったよね)
(今晩、夢に出てきそう。出てきたら了が責任取ってくれる?)
(え、ええ~っ?!しょうがないなぁ。じゃじゃあ、勇者として飛鳥の夢に出てやるよ。そして黒いモンスターを退治してあげる。それでいい?)
(本当だよ、約束したから。絶対だからね。現実に出てきても駆けつけてよね!)
(夢で絶対って……。現実に出てきたら不味いでしょ。……まあ、いいけど。じゃあ飛鳥はお姫様になるの?)
(そうだよ!私はお姫様。頼りない勇者を信じて待つ可愛い可愛いお姫様だよ)
(頼りないは余計なんだけど……可愛い?)
(こら!その疑問符は何!!)
(ごめん)
▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩
「嘘つきっ………」
私は空を仰いで小さく言葉が出た。
今の現状は彼のせいではないのに……
ちょっと胸が熱くなる。
彼は今ごろどうしているのだろうか。
三年前に日本を覆った宇宙から飛来した黒いガス体は強力な電磁波を含み、あらゆる船舶や航空機、通信機を無力化して外国との繋がりを断ってしまった。
しかもこの電磁波の雲は絶えず帯電しており、如何なる絶縁体で保護されても生命体が通過する事が不可能である。
例え、地下から海上に抜けようとしても、電磁波で発生した強力な渦巻きが日本を取り囲み外海に出る事すら叶わない。
このままでは食糧やエネルギーを海外に依存していた日本はすぐにガタガタになってしまうと思われた。
ただ幸いにも、早くに食糧生産工場化の技術を確立していた日本。
緊急事態宣言により、あらゆる企業活動を政府主導に切り替えた日本政府。
政府主導により食糧増産とエネルギー自給計画が示され、海水中の水素分離による燃料プラント、それによる水素発電と風力、地熱を総動員したエネルギーを獲得。
新しい価値観のもと、全てを国内循環による消費と生産をコントロールする事に成功する。
一時はパニックになるところだったが、新たに編成された自衛隊を母体とする
駐留アメリカ軍もこの機関に編入し、多少の荒事もあったが何とか国民は平静を保つ事ができた。
こうして日本は外国との交易なく全てを国内で賄い、社会を維持出来るようになったのである。
なのに……一年前にその電磁波の雲海から現れたBHCは、都市部を中心に人間を無差別に殺傷し始めた。
直ちに国家防衛隊が交戦したが、奴らは人間を遥かに上回る戦闘力を持っており、拳銃程度の武器ではまるで歯が立たない。
おまけに都市部での戦闘では、市民の命を優先して重火器の使用を控えた事で被害は急速に拡大した。
直近の推定では、日本人の人口は半減したとの予測もある。
…………酷い話だ。
カタンッ
地下に降りていくと、明かりのあるドーム型共用スペース区域に入る。
いわゆる一般型市民シェルター。
あの日本を取り囲んでいる黒いガス体は、普段は海岸線付近に留まっている。
ところが不定期に内陸部に侵食してくる事があり、それを私達は【波】と呼んでいる。
この【波】は予測が可能で、発生する前後に電磁波が強まる場所を観測する事で事前に警報を出す事が出来る。
黒い雲の電磁波は人体に極めて有害である為、政府は全国の市町村ごとにこの一般型シェルターを整備した。
「人の気配が感じられない……?」
日の出町に発生した【波】は一週間前。
警報は【波】発生の三時間前に出ており、町民の避難には十分な時間だった筈。
本部が緊急信号を傍受したのは今日の朝。
途中の町には人影も無かった。
私は嫌な予感がして、奥の居住区に足を踏み入れる。
そして………
「うっ?!」
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