第389話 飛鳥の過去4(隣人)

◆10年前

飛鳥 視点


キョロキョロッ

「何処だ、了?居ない??」


了君が私の部屋のベランダに隠れている事を知らないお兄さん。

彼が居なかった事に納得がいかなかったみたい。

アチコチ見回して窓際に近づいてくる。


あ、お兄さんと目が合った。

コッチに来る?



「どうも……お隣さんかな?」


「あ、はい。どうも」


『!シーッ………』


ついに、お隣のベランダ上に出てきたお兄さん。

私にお辞儀すると、頭をかきながら首を捻ってる。

こちら側のベランダに隠れている了君は、口元に指を立てて私に絶賛口止め依頼中。


お兄さんはやっぱり私に気づいてない。

さて、どうしようか。


「ええっと?うちの弟を見かけなかった?」

「………あの……」

『シーっ、シーっ、シーっ』


必死に自身の存在を内緒して欲しいとゼスチャーする了君。

困ったな。


「あの?」

「……河川敷で声をかけて頂きました」

『?』


「河川敷……ああ、あの時の」

「あの時は有り難う御座いました」

『………』


「ボクは声をかけただけだよ?」

「いえ、公園で犬に襲われていたところを弟さんに助けてもらいました」

『?!』


「公園で弟が?じゃあ、野犬騒ぎの?」

「はい。了さんが助けに入ってなければ、私と妹は大怪我をするところでした」

『………』


「あいつがそんな事を……お嬢さん、済まなかったね。余計な気を使わせたようだ」

「余計な気……?」

『………』


「あいつはゲーム好きで、自分がゲームの勇者だったと思い込みをしている只のガキだよ。つまり格好つけたかっただけ。君が感謝する必要はないんだ」

『…………』


お兄さんの了君への評価は何だか低いように感じる。

格好つけたたかっただけ?

不本意そうにお兄さんの言葉に耳を傾ける了君。


仮に彼にとってはそうだったとしても、あの時に自身の危険も省みず動いてくれた事には感謝しかない。

この気持ちは伝えたい。


「……お兄さんの感じ方はそうかも知れません。ですが私と妹はそのお陰で助かったんです。だから了君には心から感謝してます」

『!』


「……そうか。なら、弟が危険を犯した事は報われたんだね。有り難う、お嬢さん」

「え?」


「聞いたか了?お嬢さんはお前に感謝してるそうだ。だが、母さんが怒るのはお前のその危険を省みない事に対してだ。勇敢と無謀は意味が違う。その事をよく理解し今後の行動はよく考えるように。取り敢えず今日、門限に遅れた事は母さんに後で謝っておく事。それとお隣の迷惑になるから早く戻りなさい」


『!!』


そう言うとお兄さんは家の中に入って行ってしまった。

どうやら、了君が此方のベランダに隠れていた事がバレバレみたい。

了君は何か気恥ずかしいような顔で立ち上がると、自身の家のベランダの先に目をやっている。

間接的に感謝を伝えた私も何故か気まづい。

どうしよう。


「………なんだよ、兄ちゃん。気づいてたんじゃん」

「え?」


彼は背中を見せたまま独り言を言ったみたい。

そして頭をぐしゃぐしゃしながら振り向いた。


「勝手に邪魔した」

「………いえ」


「あと、お前の事、覚えてなくて悪かった」

「…………」


「だからな、感謝とかいいからな」

「あ、でも、感謝してます」


「う、その、気にするな」

「気にしてた。ずっと伝えたくて。本当に感謝してます。有り難う」


「いや、だから気にしないって……恥ずかしいなぁ、もう」


何かモジモジしてる彼、可愛いい?

くすっ


「笑った?!」

「あ、いえ、恥ずかしがり屋だなぁって」


「恥ずかしがり屋じゃない!帰る!」

「あ、ゴメン」


了君は来た時と同じ様にベランダ上を向こう側に飛び越えていく。

向こう側に着くと、彼は振り返って笑った。



「……その、名前言ってなかった。僕は了、高木 了だ」

「私は飛鳥。友奈 飛鳥。三組の了君だね」


「同じ学校!?」

「うん。同じ学年で私は五組」


「はは、世界は狭いんだ」

「そうだね。学校とお隣としても宜しく」


「オーケー。友達になってやる」

「なってやる?何で上から目線なの?」


「僕は勇者だから。偉いんだ」

「ゲーム」


「ゲームじゃない。昔、僕は勇者だった。その記憶があるんだ。誰も信じないけど……」

「本当なの?」


「本当さ。断片的だけど」

「ダンペ?難しい日本語を知ってるんだ」


「断片的っていうのは、ところどころのちょっとって意味で、あれ?えーと、だから少ししか覚えてないって意味だよ」

「うろ覚えって事だよね」


「うろ覚えじゃない!」

「まあ、いいわ。とにかく友達で宜しくね」


「お、おう。じゃ、またな」


手を振りながら自室に帰っていく彼。

こうして私は彼に会う事が出来、やっと公園での感謝を伝える事が出来た。



そしてこの日から私達は家族ぐるみの付き合いをする事になり、彼とは長い付き合いになっていくのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る