第388話 飛鳥の過去3

◆10年前▪江戸川区時原小学校放課後

飛鳥 視点


その日の放課後、早速私は了君に会おうと三組に行った。


「え?もう居ない?」

「うん。さっき助っ人に行くって猛ダッシュで駆けて行ったよ。すれ違った先生が『廊下は走らない!』って怒鳴ってたけど」


「助っ人……」

「今日、サッカーの試合があって、その片方のチームに呼ばれてるって言ってたよ」







江戸川区は川と海に挟まれた土地で、河川敷に様々な運動場が多い。

だからサッカーをしている子供達は大勢いて、その中から一人を捜すのは結構大変だったりする。


「はあっ、はあっ、はあっ、な、なんなのよコレ?広すぎでしょ」


運動場は一つじゃなかった。

随分先まで沢山あって、とてもじゃないけど捜して回る気にならなかった。


歩き疲れた私は、傾いた夕日に目を奪われながら河川敷の土手沿いに腰を下ろした。

海からの風が比較的強くて髪がまとまらずに苦労する。

でも涼しくて気持ちいい。

時折低空をカモメが飛んでビックリするけど、海が近いから仕方ない。

スカイツリーや観覧車。

川を行き交う沢山の船。

ここから見る景色は本当に飽きない。

引っ越しで友達と別れるのが嫌だった。

だから泣いて親に抵抗した事もあったけど………。

「案外、良い町かも………」


「そりゃあ良かった。だけど都会は物騒だ。日が暮れる前に帰った方がいい」

「!?」


一人私が黄昏ていると、背後からいきなり声をかけられた。

見上げたら自転車に乗る背の高いお兄さん。

白半袖Yシャツで黒ズボン、学生リュックを背負っていて中学生くらいかな。

顔の輪郭は端正だけど、前髪が長くて目元が隠れてよく見えない。

だけど何処かで見た事がある?


「海風は急に強くなる。体感温度は急に下がると半袖では寒くなるよ」

「あの、同級生を捜しているんです。近くでサッカーをしてる小学生は知りませんか」


「ん~っ運動場でサッカーをしてる小学生や学生は沢山いるからね。一人を捜すのは大変じゃないかな。それに小学生はもう皆、帰る時間だよ。早く帰りなさい。じゃあね」

「あ、はい」


お兄さんはそのまま自転車に乗り離れて行った。

何処かで会った思ったんだけど気のせいだったのかも知れない。

私はランドセルを背負い直し、自宅に向かい歩き出した。

今日はもう帰ろう。

明日、学校に行けばきっと彼に会えるだろう。



◆◇◇◇



家の前に着くと、お母さんが門前で誰かと話していた。

近づくと気づいた母がコチラに顔を向けた。


「あら飛鳥。お帰りなさい。今日は遅かったのね。集団下校時間に戻らないからお母さん、心配しちゃったわ」

「ごめんなさい。ちょっと用事があって。あの?」


母と一緒にニッコリ覗き込む女性。

母と同じくらいの年みたいだけど、ちょっとスーツ姿で主婦の母とは違う雰囲気の綺麗な女性。

誰?


「こんにちは、お嬢さん。あ、もうこんばんわかしら?」

「え、ええっと?」

「飛鳥、言わなかったっけ?お隣の高木さん。わざわざご挨拶に寄っていただいたのよ」


「たかぎ?」

たかぎ?高木?了君と同じみよじ?


「活発なお嬢さんなのね。女の子っていいわ。ウチは男所帯だがら皆やんちゃで困ってるの」

「まあ、そうなんですか。男の子も可愛いですけどねぇ」


「男の子なんて大変よ。上は中学生になってから落ち着いてきたけど、今度は下が手が掛かるようになってきて困るわ」



何か長くなりそう。

私は高木さんに頭を下げ、二人の間をすり抜けて家の中に入っていった。

そして自分の部屋に入り、そのままベッドに倒れ込んだ。


「ああ、疲れた……」


意外と疲れた。

彼には会えずに歩き回るばかりだった。

だけど景色は良かったから満足かな。

何か眠い。





コンコンコンッ

『……おーい』


「……」


コンコンコンッ

『聴こえないかなぁ?おーい』

パチッ

「……え!?」


『あ、やっと起きた?おーい!』


ビックリした。

ベランダに男の子の姿があり窓を叩いていた。

私、ちょっと眠ってたみたいだ。

けどココ、2階だよね?

大人だったら悲鳴をあげてたよ。

見たところ私ぐらい。

あれ?


「了、君?」

「お、僕の名前、知ってんの?僕も知らないうちに有名人になってたか」


馬鹿っぽい事を言いながら、テラスに腰掛ける彼。

どうしたのかしら。


「あの、了君。どうしてウチのテラスに入ってこれたの?ここ2階だよ?」

「ああーっ、隣が僕の家。ほら、二階テラス同士で10センチも離れてないから」


「本当だ」

「君、こないだ学校の屋上にいたよね。同級生だと思って」


「そうだね」

「だからゴメン!ちょっとここに匿って」


「え?」

「母さんを怒らしたんだ。ヤバいんだよ!」


「怒らした?」

「帰宅が遅いってカンカンなんだ。逃げてるんだよ」


つまり了君の家は私の家のお隣って事?

じゃあ怒ってるのって、さっきお母さんと門前で話してた人が了君のお母さんだ。


何て事。

こんな近くが彼の家だったなんて、私って凄い鈍感だった。




「何処だ、了。母さんがカンカンだぞ。何やらかした?」


私が唖然としていると、隣のテラスに別の人影が現れる。

それは中学生くらいのお兄さん?

あれ!?



あの人って???!

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