第382話 差別

◇飛鳥 視点


(施設内ESP覚醒者全員の訓練義務化?それも年齢や技能に関係なく訓練を強要させるだって?!)


「馬鹿げてる。あまりに非効率で時代錯誤も甚だしい。大昔の戦前教育みたいで一方的過ぎるわ。子供達の可能性を潰す気なの?!」

「ひっ!?わ、私に云われても困りますわ」

「あっ、ご、ごめん。熱くなり過ぎた」

つい熱弁して真莉愛の鼻先まで顔を寄せてしまい、彼女を驚かせてしまった。

真莉愛は隊員の命令でやっているだけ。

ちょっと申し訳ない。

ん?


「銃を持ってるの?真莉愛は何を訓練しているの?」

「ご覧の通り銃の取り扱いからですわ。私のような非物理干渉ESP覚醒者は一般人と同じ。兵隊のマネ事くらいしか出来ませんもの。でも覚えておけば多少の護身術にはなりますから」

真莉愛は肩から掛けた歩兵銃を掲げて見せる。

何だか重そうだ。

言葉使いもちょっと変。

真莉愛はお嬢様だったのかな?


「真莉愛はこれを受け入れてるの?」

「子供達には理不尽、だと思う事はありますわ。ただ、帰るところもありませんし先程言った通りです。それに子供達の世話は嫌ではありませんから」

そう言って後ろを振り返る真莉愛。

彼女の背後には付き従う5人ほどの子供達。

小学生や未就学児で年齢はまちまち。

彼女の目線に笑顔で応えている。

流石に子供達には銃を持せていないが。


「とにかく子供達を任されたのですから出来るだけの面倒は見ます。ですが、子供達を戦力とする考え方があるのでしたら私も絶対に反対ですわ」

「当然よ。それにこれは彼ら彼女らから教育の機会を奪っているの。危険だし、すぐにも止めさせるべきよ」

「私を含め皆、飛鳥さんと同じ考えですわ。ですが……逆らえないのも事実です。私達のような非戦闘系は単なるムダ飯食らいなのです。片身が狭いのですわ」

「……!」

知ってはいた。

そういった噂が保護施設内で流れている事を。

だけどその噂は施設内で流れること自体が可笑しな話なのだ。

何故なら私達ESP部隊は30人余り。

その一人一人の人となりはほぼ共有されており、知らない人間なんか居ない。

私達も含めESP覚醒者は皆、大なり小なり一般社会から差別されたり煙たがられたりしていて、子供達のほとんどが親から虐待を受けた経験がある。

そんな経験を持つのがESP覚醒者でありESP覚醒者同士での仲間意識は家族の結束よりも強固かも知れない。

その中で広がったESP能力差での差別的発言。

内容からして、出所はNG本部の意向に従った派遣スタッフや関係者に違いない。

実際、NG本部自体はESP部隊に過度な期待はしていない。

私達を対BHC対策の救世主として社会の安定化を図っても、不要となれば何時でも切って捨てる考えなのだ。

それは元々私達エスパー部隊を含むESP覚醒者全体を疎ましく思っているに他ならない。


やはり人間は昔から変わらない。

人間は自分達と異質な者を恐れ排除する。

特に為政者達にとって、理解が及ばない存在は排除したいのだ。

「……まるで魔女狩り」

「飛鳥さん?」

「何でもない。それじゃ真莉愛さん、皆も怪我をしないようにね」

「はい、気をつけますわ」

「「「「「はい」」」」」


私は彼女達と別れて沙霧ちゃんと猫を触っている三人のところに戻る。

「ニャー」

「あ、あすかおねぇちゃん!」

「あすか姉ちゃん!」

「アスカ姉さん!」

「………」

「ごめんね。ちょっと話込んじゃって。えーと、三人の引率者は何処にいるの?」


三人はすかさず私の後ろに指を指した。

振り返ると、手前施設の端から此方を伺う保護施設女性職員がいる。

「あのおばさんがそう」

「あの人、ノーマルのおばさんなの。怖がりなんだよ」

「そう、ビビり」


ノーマル。

ESPを持たない人の私達側からの総称。

あまり良くない言い方だから皆に禁止してた呼び方なのに……

「伶奈、そんな言い方しちゃ駄目でしょ。私達は皆同じ人間なんだから。二人もビビりとか駄目よ」

「え~。だって、あのおばさんも私達の事を言ってたよ。この化け物って」

「?!」

「私、おばさんに親切に教えてあげたの。おばさんの息子さん、まだおばさんの側にいるよって。胸から血が出てるよって。そしたらおばさんはブルブル震えちゃって。酷いよね。私、親切に教えてあげたのに。だから私も言ったの。おばさんはノーマルなの?ってね。そしたら化け物の側にいられない、離れてって言われてずっとあんな感じ」

「………………」


伶奈の能力はクレヤボヤンス。

普段は透視だが本来の能力は霊視。

彼女の目はこの世との境界にある。

おそらく本当に死人が見えたのだろうが、一般人からすれば恐怖でしかない。

三人の引率者はもはや職務を全う出来ないのだろう。

また一人、保護施設の職員が失われる事になった。


はぁっ

私は溜め息を吐くと三人と沙霧ちゃんの目線にしゃがんでその手を取った。

「私達は化け物じゃないしESPを持たない人も私達と同じ人間なの。ただ人は自分が理解出来ないものを恐れる。ようはお互いに誤解があるだけ。だから無闇にお互いを隔てる言い方は使うべきではないの。判った?」

「「「判った」」」

「……」コクッ

「ニャー」


子供達にはこういった差別からは無縁でいて欲しい。それが私の願いでもある。



それにしても今回のNGの決定は強引過ぎて違和感が拭えない。

本当にNG本部の決定なのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る