第7話 りか

◆高木家リビング

りか視点


「あの」

女の子が何か発言しようとしたところで、亮平さんが割り込んできた。

「まあ、まあ、母さん、そんな慌てて事情を聞かなくても、たった今、起きたばかりなんだから。それにしても、お嬢ちゃん?随分、日本語が上手だね。どこの国から来たのかな?灰色髪で目が青いから北欧か、ロシアかな?」


「父さん、そのどちらでも無いと思う。ここには、北欧もロシアもないよ」

了が首を振る。

「そうなのか?じゃあ、アメリカか?それとも」


もう、勝手に話しこんで!。

亮平さんと了ったら!

「二人共!ちょっと静かにしてもらえる、私がこの子と話してるんだから!それから、二人共、この部屋から出ていきなさい!」

「「わ、わかりました?!」」


まったく、男どもはデリカシーがないんたから。

さて、この子の服の状態や汚れ具合は、普通ではないわね。

それに、さっきの不思議な光で主だった傷はなくなったけど、背中や足の裏に僅かに残ってる傷は、尋常じゃない。

でも、だからといって、此だけは許せない。


私は立ち上がると、私の怒りが伝わったのか、女の子は私の目にオドオドしている。

でも、その怒りが訳がわからないという顔をしているわ。

ごめんね、でもこれは、貴女に必要な事なの。

パァンッ


私は、女の子の頬を打った。

女の子は、頬を押さえながら目を丸くして驚いている。

「貴女、自殺しようとしたわね?ナイフの刺さり方で誰かに刺されたか、自分で刺したかわかるのよ」


私は、女の子の横に座ると、女の子を抱きしめた。

「その貴女に僅かに残っている傷を見れば、貴女がどんな仕打ちを受けてきたかが分かる。でもね、自殺だけは駄目。貴女のお母さんが命をかけてこの世に産んでくれたのに、それを自分から絶つなんて決して許される事ではないわ。ね、だから、もう二度とこんな事はしちゃ駄目、いい?」


「あ、う、うわああああん、うわああああん」

女の子は、堰を切ったように泣き出した。

ああ、この子は愛されてこなかったのね。

いまは、好きなだけ泣きなさい。

貴女が愛されてこなかった分は、私が愛してあげる。

私は、震えながら泣き続ける女の子をいつまでも、抱きしめ続けた。



◆◆◆



「おふろ?」

「そう、今、水が出ないんだけど、○コキュートっていって、電気、ってわかる?分かるのね、電気でタンクに貯めた水を温水にしてあるの。これでお湯なら一回分くらいお風呂に使えるわ。私と一緒に入りましょう」

あら?この子、顔が真っ赤だわ。

熱でもあるのかしら?オデコを付けて、あら?ないわね、ああ、そうか。


「恥ずかしいの?大丈夫よ、んー、でも、お湯が勿体無いから、皆で入ろうか?了!」

ドタドタドタッ、了が二階から降りて来たわね。

もっと静かに、降りられないのかしら?


「何、母さん?」

「三人でお風呂、入るわよ」

「三人?誰と誰?」

「私とこの子、あと了、あなたよ」

あら、了が真っ赤だわ。ん?女の子が目を丸くして驚いてる?どうしたのかしら。


「母さんや、私も一緒でい」

「亮平さんは、駄目に決まってるじゃない」

しょぼーん、あら?亮平さん、壁にうなだれちゃったわ。

しばらく、放っておきましょう。


「と、父さん?!」

「ほら、了、ええっと?貴女の名前は?」

女の子は、おずおずってして顔を上げた。

「しゅ、……シルビアです」


「あら、美人さんの名前ね。貴女、将来有望よ。それじゃ亮平さん、私達、お風呂を頂きます。後はよろしく。はい、行きましょう」

私は、了とシルビアちゃんの背中を押して、お風呂に向かった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



◆カキオストロ伯爵 視点


ラーセン男爵の屋敷を、見張らせていた部下から連絡がきた。

ラーセンが大勢の領兵とともに、森に向かったとの事だ。

「まさか、あの娘に関わりのある事ではあるまいな?」


ぬう、やっと見つけた金の卵だ。

万が一があると不味い!

「誰ぞ、馬を引け!ラーセン男爵領に向かう」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



◆りか視点


ザバーンッ、「はい、シャンプーをかけて、ほら、逃げない!はい、ゴシゴシ洗う。あら?貴女、髪が光ってる?これ、銀髪ね?あらーっ、なんて可愛いいんでしょ、なんか、少女漫画に出てくる貴族令嬢みたいじゃない?ほら、了もそう思うでしょ?了?あなた、何、お風呂に潜ってるの?子供ねぇ」


なにこの子、凄い可愛いいわ。

まるで、ロシアか北欧の子供モデルみたい。

いいわぁ、しかも、肌が透き通るみたいに白いわ。

随分汚れていたから分からなかったけど、本当に貴族令嬢かもしれないわ。

「あ、の」

「あら?なにかしら」

「母さんって呼んで、いいですか?」


あらあら、どうしようかしら。

私、今、十八くらいでこの子、ハ歳くらいだから十歳でこの子を産んだ事になるかしら?

あら?了は、じゃあ、十三歳の時の子?

それは、不味いわねぇ。

「そうねぇ、亮平さんと私達の時は、母さん呼びでいいわ。それで、それ以外の人の前では、お姉さん呼びでね?了もよ」

「分かりました」

「なんで、僕まで」

了が、お風呂で浸かりながら言った。


「日本の法律に引っ掛かるの!父さんを犯罪者にしたいの?」

「ここ、日本じゃなくて異世界だよ」

「口答えしない!」


「……はい」


了は納得していないようだけど、せっかく若返ったんだし、これくらいの役得はいいわよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る