第391話 飛鳥の過去6(消える日常)

◆五年前

飛鳥 視点

中学校▪放課後


「はい、授業はこれで終了です。皆さん、今日の予習、復習を忘れずに」




キーンコーンカーンコーン

キーンコーンカーンコーン



「はあ、やっと授業が終わったぁ。飛鳥、これから部活なの?」



中学生になって3ヶ月。

私も其なりに学校に慣れて新しい友人もできた。

その新しい友人の一人、恵美が今日は珍しく声をかけてきた。


彼女は乙女座で女子力のある女の子。

普段からメイクを取り入れていて、髪の一部を茶髪にしたり、うっすらとファンデしたり校則に触れないレベルで上手くメイクするのが得意だ。

ネイルも自慢で、独自に自分で作ったりして回りにファンがいたりする。

ある意味、凄い女子なのだ。



「あ、うん」


「ふーん。てっきり彼氏とラブラブ帰宅かと思った」

「は?恵美、彼氏って誰の事よ!?」


「またまたぁ、いつも送り迎えして貰ってるじゃん」

「了の事?アイツは幼なじみで隣近所だからだよ。彼氏のわけ無いじゃない」


「ふふーん?向こうはそうは思ってないかもよ」

「無いよ」


「ほんとに?」

「アイツはまだまだ只のガキ。私からしたら弟みたいな存在」


「そうなんだ」

「何?恵美、気になるの?」


「うーん私はそうではないけど、了君って前々から運動神経良いじゃん。だからそういう目で見てる子はいるかも。まあ、飛鳥がいつもくっついてるから、正面から近寄る子もいないけど」

「くっついてるって……」


「そう見えてるよ。了君を意識してる子達からすると」

「只の幼なじみで家が隣。それ以上でも以下でも無い。そもそも恵美、同世代の男子に恋愛感情なんで湧く?」


「そう言われればそうかも。やっぱり中一男子ってまだまだ子供だよね。私の従姉妹は都内でパパ活やってるから、大人の男性と比べると幼稚過ぎて駄目だって言ってた」

「パパ活!?」


「ああ、変な事はさせてないってよ。デートの真似事をしてお小遣いを貰うだけって」

「いや、十分変な事だと思う」


恵美って前々から大人びてると思ったけど、その従姉妹はもっと凄かった。

パパ活って、知らない大人と会ってお小遣いを貰う何か危ない事だよね?

前にお父さんがエンジョコウサイ?とかって言ってたヤツだ。



「従姉妹さん、危なくない?」

「いいのよ従姉妹の事は。其より飛鳥の事」



いいのか?従姉妹がパパ活してて。


「ん?私の事?」

「一応言っとくけど、了君は卓球部に入ったじゃない?」


「そうだね」

「先日の模擬戦、凄かったらしくて。先輩達を軒並みやっつけちゃったらしいのよ」


「そんなに?」

「それで卓球部女子が騒いでいて注目の的だったって」


「卓球部女子……」

「卓球部は男子部と女子部があるけど、練習試合は合同でやってるの。その時はランク戦で部活での順位決定戦だった。そこでの順位がインターハイ出場の主力に選ばれるんだけど、了君が先輩達を抑えてベスト1になったのよ。だから観戦してた卓球部女子達が騒いでて、何人かは了君に声を掛けてたって話」


ウチの中学は陸上部と卓球部、野球部が強い。

それぞれに学校外顧問がいて、独自の指導を施している。

だからなのか、その三つの種目は毎年インターハイ出場校として上位に名を連ねていて、学校内でも注目されやすい雰囲気がある。



「ならアイツ、さぞかし有頂天になってるね。一発締めといてやるわ」


「あはは、やっぱり飛鳥は眼中にないか。心配した私がバカみたい。了君に会ったら主力選手昇格おめでとうって言っとくわ」



なんだ。

結局、部活で活躍したから注目を浴びただけじゃない。

ちょっと心配して損した。



あれ?

ちょっと心配したって何??







タッタッタッタッ


「はあはあはあ。なんだ、待ってたんだ」


「そりゃあ待ってるだろ。帰り道一緒だし、飛鳥の母ちゃんからも飛鳥をお願いって言われてるんだから」

「部活、長引くかも知れないから先に帰っていいって言っておいたよね?」



部活が終わって六時半。

すっかり日が暮れた校門前。

陸上部が活動してるのか、グランドの明かりが煌々と眩しい。

部活が終わり帰路についた私。

校門の人影に気づき駆け足で向かえば、やっぱり待ち人は了だった。


前々から部活が始まったら帰りは別々にって言っておいた。

だけどこの一週間。

別々に帰った日は一度もない。

だから今日も期待して、更衣室の退出時間は短縮に努めて慌てて出てきた。


期待して?

何なのこの感情。

自分が自分の気持ちに戸惑ってる。




「はんっ、僕は男だからね。女の飛鳥を一人に出来るわけないだろう」

「別に治安が悪い訳じゃないし、そもそも了の卓球部はまだやってるじゃない。途中で抜けてきたでしょ?」



今週から本格的に部活が始まった私達。

部活の体育館は一階と二階に別れていて、バスケとバレー部は一階、卓球部は二階を使っている。

入り口は別だから直接見る事は出来ないが、夕方の体育館なら電灯の有無で活動は直ぐに分かる。

二階は明らかに電灯はついている。

まだやっている証拠だ。



「いいんだ。僕はこれ以上強くならないから。必要な部活メニューはこなしてる」


「だからって、待ってられたら慌てるんだけど」

「気にしてない。本よんだりしてるし」


「コッチが気になる。まさか一人で帰るのが怖いの?」

「そんな訳あるか!」



と言いつつ私の前を素通りする彼。

全く、いつま迄も過保護なんだから。

彼の背中に視線向けつつ、このやり取りに安堵する自分がいる。


小学校から続くこの状況。

すっかり当たり前と感じてる私。

来年には妹も中学。

また三人で帰る事になるのだろう。



夕飯ですら時々共に過ごす友奈家と髙木家。

私の父は了の父である亮平さんと将棋仲間。

母は同じく了の母である、りかさんと日曜料理倶楽部仲間。

妹と私は時折、彼の兄である俊さんに家庭教師を頼む仲。

そして了は私の……弟ポジ?



ともかくこれが私の今の日常。

髙木家族との付き合いは、お互い離れる事が出来ないくらい近しい関係になったらしい。



「ま、いいか」


「何か言った?」

「別に」


振り向く彼に笑顔で応える私。

了が頬を染めた気がしたけど気のせいなんだろう。




だから思ってた。


ずっとこの関係が続くなんて、続いて欲しいなんて心の底から思ってた。




思ってたのに………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る