第385話 新任務
◆覚醒者保護施設
飛鳥 視点
「じゃあ、沙霧ちゃんは責任を持って預かるわね」
「お願いします。沙霧ちゃん、管理人の山田さんの言う事、よく聞いてね」
「…………」コクッ
「ニャー」
「ああ、あんたもね、たま。本当は施設に動物は駄目なんだけど、沙霧ちゃんの家族じゃ大目に見るしかないからね」
「ニャー」
エスパー部隊に帰還した私は、沙霧ちゃんを覚醒者保護施設に保護の名目で預ける事となった。
でも、これは規定通り。
ESP値を測定した沙霧ちゃんは間違いなく覚醒者。
ESP覚醒者はその力を制御出来るよう、保護施設で学ぶ必要があるからだ。
「…………」
「なんだい?沙霧ちゃんは声が出ないのかい?」
「山田さん、その、彼女はショック性の言語障害らしくて……精神的なものだからって先生が言ってたからいずれ声は戻るけど……」
「……そうかい。そういや、ココにはそんな子達が多いかね。判ったよ。ちゃんとそこも含めて預かるからね」
「宜しくお願いします」
「…………」ペコッ
「ニャー」
管理人の山田冴子さん。
通称、山田のおばちゃんは五十代の太っ腹おばちゃんだ。
性格も体型も太っ腹で気立てが良い。
常に皆の衛生面や健康に配慮し、食事に洗濯掃除まで世話する肝っ玉母ちゃん的存在である。
かく言う私も精神的に彼女に癒された一人でもあり、信頼出来る数少ない大人である。
「じゃ、沙霧ちゃん。おばちゃんの言う事聞いて良い子でね。また、会いに来るから」
「………」コクッ
私の手を握りしめ俯いて中々手を放さない彼女を、何とか言い聞かせて私は施設を出る。
チラ見で振り返ると啓、伶奈、勇二の三人が沙霧ちゃんを囲みながら手を振っていた。
彼女はきっと大丈夫。
いずれ声は戻り、必ず立ち直るだろう。
私がそうであったように。
また会いにこよう。
◆
私が部隊に戻ると、
何かあったのだろうか?
「飛鳥ちゃん、困った事になったの」
「先生、何かあったんですか?」
私が質問するとリーダーが代わりに口を開いた。
「すまん飛鳥。ベータ隊に欠員が出て替えが居ない。その為に作戦行動に支障が出ている。帰った早々で悪いが合流に向かってほしい」
「ごめんなさい、飛鳥ちゃん。疲れているのに申し訳ないわ」
「いえ、疲れはありません。それでベータ部隊はどんな任務についていたんです?」
「稼働停止した水素プラント復旧工事の護衛だ。治安維持部隊との共同任務だったんだが戦闘ESPの一人が病で倒れ、交代要員を要請してきたんだ」
「水素プラント……千葉の工業区ですね。あそこは東京湾側で防御シールドが効いている場所。比較的安全な区域だと思ったんですが治安維持部隊だけでは駄目なんですか?」
「本部からじきじきの要請よ。断われないの。ベータ部隊の二名は防御特化型。守りには強いけど戦闘には不向き。囲まれたら反撃出来ないわ」
「知ってます。
私は地図を見ながら頷いた。
部隊の主力は30人。
世代も近いし皆、その力も含めて知った仲だ。
ベータ部隊は元々防御に強い守り型。
だけどそれだけに有用性がある。
だから比較的出動回数が多く、治安維持部隊と連携を求められる。
更に唯一の戦闘タイプ、武藏が繰り出すESPは磁界を操る遠距離攻撃型。
その破壊力は重戦車並みで、攻守ともに安定のエスパー部隊最強チームなのは間違いない。
だからどうしても出動回数が増えてしまう。
連日の出動でチームは限界だったのだろう。
武藏が病に倒れたのは、その疲れの蓄積に他ならない。
「ベータ部隊に出動が集中し過ぎです。この機会にベータ部隊に休息をお願いします」
「善処するわ。いや必ず休息をとらせる。その為にも飛鳥に行ってもらうしかない。頼める?」
「ええ先生。大丈夫、私が三人を連れ帰る。現在の向こうの情報は?」
「まだ特に問題は起きてない。だが首都圏には防御シールドがあるとはいえ、BHCには意味はない。奴らとの交戦が始まれば、治安維持部隊だけでは心細いのは確かだ」
これには正俉が答えてくれた。
防御シールド。
それは強力な風を起こす巨大風車の事。
首都圏や主要都市など全国にあり、ブラックスモッグ(BS)の進出を感知すると自動で回転。
台風並みの風力でブラックスモッグの進出を抑える。
これにより首都東京は未だブラックスモッグの脅威から免れている。
だがBSEは、ある程度ブラックスモッグから離れても活動出来るようで時より集団で上陸して治安維持部隊と交戦になる。
ブラックスモッグの中から現れるBSE。
その生態は未だ謎に包まれているのだ。
「飛鳥、貴女も連日になるわ。無理だと思ったらその場は治安維持部隊に任せなさい。無理はしない事。判ったわね」
「はい先生」
こうして私は新たな任務に向かう事になる。
仲間との合流と水素プラント修理の護衛。
それが私の新たな任務だ。
「そういえば千葉方面なら江戸川区を通るのよね?貴女の住んでいた町じゃない?」
「はい。まだあれば自宅があった場所です」
「実はね、私は前の仕事であの町で暮らした事があったのよ」
「先生が?」
先生は急に思い出を語るように天井を見上げだ。
江戸川区に特別な思いがあるようだ。
まあ、私もそうだけど。
「ちょっと仕事の関係で店をやっていたの。情報収集が目的だったんだけどね。そこの常連客でとっても良く通ってくれた人がいたの。あの人は今どうしているのかしら……」
「何て名前ですか?」
「ええと名前は亮平さん?だったかしら。みよじ、名字ねぇ。確か高木、高木さんだったかしら」
「た、高木?!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます