第2話 成人の儀式
「なんだ、文句があるなら言ってみろ!」
アッケネーアが僕に詰め寄る。
怖い、今にも逃げ出したいよ……。
でも、ここで止めなきゃリコは、今日の夜にはコイツのものに……!
言うんだ、リコに思いを伝えて、引き留めるんだ!
――スゥ……。
僕は大きく息を吸い込み――。
「な、なんでもないよ……。ごめん……」
口元まで出かかった言葉を、飲み込んだ。
この村でアッケネーアに逆らうと、生きていけないんだ……。
僕は――弱い奴だ。
「っち……弱い癖に粋がるなよなぁ……行こうぜ、リコ」
「トン……!」
そうだ、僕は弱い奴だ。
リコは失望したような、哀しい目を僕に向けてくる。
そして名残惜しそうに、ゆっくりと僕に背を向ける。
ああ、もう終わりだ。
僕は軽蔑されただろう。
好きな子一人守れない、本当に弱い奴だ。
「はぁ……結局、僕ってこういうやつなんだ……」
リコに行かないでって言えなかった。
アッケネーアにビビッて、本当の気持ちを抑え込んでしまった。
僕はその場に座り込んで、いじける。
しばらくして村の人が僕を呼びに来た。
「おいトン、【成人の儀式】が始まるぞ! そんなとこで何してんだ!」
そうだ――成人の儀式!
まだチャンスがあったぞ!
ここでアッケネーアより強いスキルを授かれば、自信を持ってリコを誘いに行けるかもしれない!
どうせアッケネーアなんかには大した才能はないさ……。
少しでもまともなスキルを得られれば、逆転できるはずだ!
―――――――――――――――――――――――――――
「そんな……嘘だろ……」
儀式の間の、一番後ろの席に座り、僕は絶望の表情を浮かべる。
なんとあろうことか、アッケネーアの授かったスキルは――。
「アッケネーヤ・カタトルス! 君のスキルは――《剣聖》だ! おめでとう。お父さんもさぞ喜ばれることだろう」
司祭さまがアッケネーアにそう告げる。
「うおおおおお! 俺さまが剣聖!? やったぜ! これで世界は俺のものだ! ギャッハッハ!」
アッケネーアはギザギザの歯をむき出して、バカみたいに高笑いする。
そして村人たちも、それに呼応するように騒ぎ出す。
「マジかよ……村長さんのとこの息子、剣聖だってよ……!」
「まさかこの村から剣聖さまが出るなんてねぇ」
「大したものだよ。うちの息子にも見習わせたいな」
なんてこった……!
これじゃあ僕の想像の真逆じゃないか……。
ますますアッケネーアに敵いっこない。
「では次、リコ・ユリネスティ……前へ」
お、次はリコの番か……。
いったいどんなスキルを授かるんだろう。
「リコ・ユリネスティ、君のスキルは《魔道書庫》だ。これもかなり珍しい。おめでとう」
司祭さまは優しく告げる。
さすがはリコだ。
剣聖ほどではないにしろ、きっと強力なスキルなんだろう。
僕にも、そんなスキルが……いや、きっと大丈夫だ!
自分を信じよう。
「今年はみんな有望だな……」
「ああ、すごいスキルばかりが出やがる」
「こんな中、ゴミスキルが出たら笑いものだな……」
「はは、ちげえねえや。俺、今年じゃなくてよかったぁ」
「お、次で最後の子みたいだぞ……注目だな」
村の青年たちの会話に気を取られていると――どうやら次で最後らしい。
僕はまだ呼ばれていないし、ということは……やっぱり僕が最後か……。
嫌だなぁ、あまり目立ちたくはないんだけど。
「では、トン・デモンズくん。前へどうぞ、君で最後です」
「はい……」
僕はゆっくりと椅子から立ち上がり、司祭さまの元へ歩き出す。
みんなの視線が僕に集中し、全身から汗が吹きだす。
ここでいいスキルをもらえなければ、僕は終わりだ。
リコはアッケネーアに取られ、僕は一生後悔し続けることになるだろう。
そして、アッケネーアからの虐めはますますエスカレートし……。
ダメだ……ネガティブな想像はやめておこう。
もっといい風に考えるんだ!
僕のスキルはきっとすごいはず!
「トン・デモンズくん……君のスキルは――《
「《
僕も村のみんなも、聞いたことのないスキルに首をかしげる。
真っ先に口を開いたのは、アッケネーヤだ。
「ギャハハハハ! おいトン! なんだよそのスキルは! 鍵のスキルでどうやって戦うんだ!?」
「っく……」
確かに、アッケネーアの言う通り、このスキルは期待外れもいいところ――外れスキルだ。
剣聖のアッケネーアに比べたら、天と地ほどの差。
鍵と剣でどうやって勝つっていうんだ?
「おいまさかお前、そのスキルを悪用して、泥棒でもしようって言うんじゃないだろうな!? そんな悪党は、剣聖である俺が成敗してやるぜええええええええ! 死ねぇ!」
「う……! イタッ!」
アッケネーアは僕の肩をバシバシ殴る。
ほら、やっぱりだ……。
僕が外れスキルだとわかった瞬間、今後一生の力関係が決してしまった。
僕はもう二度と、アッケネーアには逆らえないんだ……。
「こらこらやめなさい。それに、まだどんなスキルかもわからないじゃないか!」
大人たちがアッケネーアを制止する。
でも無駄だ。
どうせこのスキルに、大した使い道なんて……。
「そうだ、トンくん。ここに村にまつわる大事な宝箱がある。中には伝説の武器が眠っていると言われている。君のスキルなら開けられるんじゃないか?」
「お、そうだな。試してみよう。もしかしたらトンがその伝説の勇者かもしれないぞ」
優しい大人たちがそう言って、宝箱を差し出してくるけど……。
これで開かなかったらどうするんだよ……。
でも、やらないよりはましだ!
「では、いきますよ。《
――システムメッセージ――
トン・デモンズの《
よって、この命令は無効。
――システムメッセージ終了――
そんなメッセージが、空中に浮かんで、消えた。
どうやらこのスキルは、正真正銘のクズスキルらしい。
「なんだったんだ今の?」
「おい、確か剣聖がどうとか書いてなかったか?」
「おいどけよトン。このアッケネーアさまが開けてやる」
僕はアッケネーアの歳の割にでかい身体に押し飛ばされ、地面に尻もちをつく。
この宝箱は、伝説の勇者が現れたときに開くと言われてたものだ。
もしかしたら、剣聖のアッケネーアならほんとに開けられるのかもしれない。
でももしそうなったら、僕は本当に終わりだ。
「さあ、宝箱ちゃん……オープンだ!」
――システムメッセージ――
アッケネーヤ・カタトルス――スキル《剣聖》を確認。
この剣の正しい所有者となることを認めます。
よって、この宝箱は以後効力を失います。
――システムメッセージ終了――
「本当に開いてしまった……」
長年誰にも開けられなかった伝説の宝箱は、今ではその役目を放棄し、大口を開けてアッケネーアを歓迎している。
そんな……。
「はっはっはー! これが剣聖さまの剣か! 俺にピッタリだな! 俺が勇者だあああああああ!」
アッケネーアは宝箱から出てきたピカピカの剣を、これ見よがしに宙に掲げる。
終わった……。
まさかあのいけ好かないアッケネーアが、伝説の勇者で、僕がクズスキルだなんて……。
世界は残酷だ。
思うようにはできていない。
それが14歳の僕が悟った、この世界の唯一の真実だった――。
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