第3話 夜の祭り
「うぅ……やっぱり僕はダメなんだ……」
【成人の儀式】が終わり、みんなは夜の【祭り】の準備に取り掛かった。
僕だけは一人、隅っこで落ち込んだままだ。
きっとリコはこのあと、アッケネーアに抱かれ……。
嫌だ!
考えたくない……。
でも、それが現実なんだ。
ごめん、リコ……僕のせいで……。
――我に任せろ! 我をここから出せ!
「う……頭が……! 割れるように痛い!」
また
地鳴りのように低い、不気味な声。
まるで地獄の底から呼びかけてくるよう……。
「なんなんだ一体!?」
【僕の心の魔物】が、今にも暴れだしそうな感じで……僕の心の扉を、内側からノックする。
いつもなら軽く声が聞こえるだけで、その後すぐに静まるのに……今日はなにか変だ。
――鍵を開けろ! 我をここから出せ!
「鍵!? どういうこと!?」
【僕の心の魔物】がここまで話しかけてくるなんて……今までになかった。
鍵を開けろと言っているけど……。
そうだ……鍵!
僕の外れスキル《
――そうだ! それだ! 我を使え!
「でもそんなこと言っても、このスキルじゃ鍵なんて開けられないよ……!」
さっき家の鍵で試したときもダメだった……。
このスキルでは、どんな単純な鍵すらも、ろくに開けられない。
鍵のスキルなのに鍵が開けられないんじゃ、どうしようもないじゃないか。
――我が内側からも働きかける! 我を信じろ! 開けるのだ!
「えぇ……!? 仕方ない、一か八かだ! えいっ!」
僕は自分の心の中にある、扉をイメージする。
小さなころからなぜか僕の心には、その扉があった。
そしていつしか僕は、自分の本音を、そこに閉じ込めるようになった。
でも、それも今日で終わりだ。
僕はその扉を、こじ開ける!
「《
――ズドドドドドドド!!!!
とても重たい音とともに、その扉はゆっくりと動き始めた。
そして中から現れたのは――。
「なんだこれ……」
僕の頭の中に、異形の怪物が姿を現す。
――ありがとう少年。我をここから出してくれて。
僕の意識は、そこで途絶えた。
―――――――――――――――――――――――――――
【side : アッケネーア】
「なあリコ、いい加減あきらめろよ? もうトンはやってこねえって……。お前もみただろ? あいつのなっさけねえ姿」
俺はおびえるリコに優しく話しかける。
リコはまだ俺の女になる気がないらしい。
俺は剣聖さまで、トンはゴミスキルだっていうのにな。
「トンはきっとくる……。私は信じてるから」
「っち……面倒な女だぜ」
あんな臆病者のどこがいいのやら。
「そんなこと言ったって、あいつはお前を誘おうともしなかっただろ?」
「それは……トンは少し奥手なだけ。もうすぐ来るはず……」
「っは……笑わせる。あいつはもうだめだよ」
祭りの開始時刻までにトンがやってこなければ、晴れてリコは俺のもんだ。
この村の風習で、迫られた女は他に競合相手がいなければ、断ってはいけない。
「それはどうかな……?」
「誰だ……!?」
突然の声に、俺が振り向くとそこには――。
「よう」
「トン……! よく俺たちの前に顔が出せたな! ヘボスキルのクズ野郎がよぉ!」
だがどうだろう……。
俺の威嚇にも動じず、トンは堂々と俺の前に立ち尽くしている。
いつもならここで萎縮して、身体を震わせているだけなのに。
こいつに何があった?
「トン、イメチェンかぁ? だがそんな態度だけいっちょ前でも、俺には勝てねえぜ? なんたって俺は剣聖さまだからよぉ!! 死ねやクソボケ!」
俺はトンの舐めた態度に心底ムカついた。
もう容赦はしない。
俺たちは成人の儀式を終えた立派な大人だ。
決闘の上で死人が出ても、誰も文句は言わない。
俺はさっき手に入れた剣聖の剣を思い切り振り上げる。
「そんな……! トン! 逃げて! 私のことはもういいから!」
リコが涙を流して叫ぶが、もう遅い!
俺はトンを殺すと決めた!
全部あいつが悪いんだ!
「うおおおおおおおおおおおお!」
俺は剣を振り下ろす!
だが――。
「ほう、これが剣聖の剣か……大したことないな」
「なに!?」
どういうわけか、トンは指先で俺の剣を受け止めた。
「ど、どうなっている……!?」
「トン!」
リコが安堵の声をもらす。
っち……そんなにあいつがいいのかよ!
クソが!
「リコ! 俺の元にこい!」
「トン!」
リコはトンに呼ばれ、嬉しそうに駆けて行った。
「あ、おい!」
「アッケネーア……。この村の風習では、二人以上の男に誘われた場合、女は好きな方を相手に選べる……んだったよな?」
「あ、ああ……」
なんだこいつ……トンのくせに、やけにヒリヒリとした雰囲気を放って来やがる……。
言葉の一つ一つに重みがあり、まるで王の言葉を聞いているかのよう。
「それで……リコ、お前はどっちを選ぶんだ? もちろん、アッケネーアなんかじゃなく、俺を選ぶよな? 俺はずっとお前が好きだったんだよ!」
「う、うん……もちろんだよトン。私も……トンが好き……」
なんだってえええええ!?
トンのやろう……!
あんな男らしいセリフを吐けるヤツだったか!?
いったいどんな卑怯な手を……。
「きいいいいいいいいいいいいいい! 許せねぇ! 俺のリコを返しやがれえええ!!!!」
俺は思いっきり剣を振り回す。
もうどうにでもなれだ。
村のルールなんか知らねえ。
俺はトンを殺して、リコを奪い返す!
「は? なにが
「う、うん……トンが来てくれて、本当によかった」
リコはトンの腕の中で心底安心しきった表情を浮かべる。
そんな、俺は嫌われていたのか……!?
「なら二人纏めて死ねえええええええええ!!」
「ばーか、死ぬのはお前だ、アッケネーア。ま、殺しはしねえけどな」
その瞬間、俺の意識は途絶えた。
何が起きたかわからない。
意識が途切れる寸前、逆さになったトンとリコを見た気がするが……。
いや、逆さになっていたのは俺の方だったのか?
とにかく俺は、トンに負け、リコを奪われたのだ。
受け入れがたいがこれが現実。
なぜなのだ……?
俺は剣聖で、あいつは外れスキルなはずなのに……!
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