2部
第17話 王の力
「リコ、ごめん……どうやら僕にはもう、時間がないみたいだ」
「トン……!」
驚いたことに、僕の右手は半分、魔族の見た目をしていた。
僕の中の魔物が、外に出てこようとしているに違いない。
「どうしよう……コレ、どんどん広がってくる!」
「トン、落ち着いて。私はトンがどんな姿になっても、そばにいるから」
「ダメだ……このままだと、僕はリコを傷つけてしまうかもしれない……!」
「トン……」
僕は必至に腕を抑えるけれど、どうやらそれも限界らしい。
夜が明ける頃には、自我を保つのも難しくなってきた。
「僕に近づかないでくれ……ううう……」
だんだん、自分が獣になっていくのがわかる。
破壊的な衝動に何度も、襲われる。
そのたびに自分を痛めつけてがまんしてきたけど、もう限界だ。
「ぐああああああああああああああ!!!!」
僕は目の前のリコに襲い掛かりそうになるのを、必死にこらえる。
どんどんバケモノと化していく僕に、リコはやさしく微笑みかける。
「大丈夫だからね、トン」
僕は、そんな彼女に危害を加えたくない。
できることなら、ずっと一緒にいたかった。
だけど僕の思考はどんどん、魔物の力に浸食されていく……。
「ああああああああああああああ!!!!」
ついに、こらえていた衝動が抑えきれなくなって、僕はリコに牙を剥く。
僕の口は、牙が生えそろい、まるで獣のようになっていた。
「トン……」
だけでリコは、そんな僕を怖がるどころか、ずっと心配そうな目で見つめていた。
だめだ、僕は彼女を殺せない。
なら、この破壊衝動をどこに向かわせればいいのか――。
――決まっていた。
「ぐああああああああああ!!」
――ドン!
僕は自分で自分の心臓を貫き、自害した。
「トン!?」
リコを傷つけるくらいなら、こうするほうがマシだ。
ごめん、リコ……。
いっしょに世界を見れなくて……。
僕は後悔の中、死んでいった。
獣として――。
《――パッシブスキル『聖母の加護』により、前回のセーブ地点から復活》
◇
「…………っは!?」
「どうしたの……トン! うなされていたみたいだけど……?」
僕は森の中で、目を覚ます。
となりにはリコがいた。
僕の身体は、人間のままだ。
「あれは……夢?」
いや、夢じゃない。
たしかに僕は、一度
だとしたら――。
「そうか、また戻って来たのか」
あのときは自我を失いかけていたせいで、忘れていたけど……。
僕には死に戻りの能力があるのだった。
これで、なんとかできそうだ。
「大丈夫? トン。怖い夢でもみたの?」
「夢……ああ、そうだね。あれは……酷い夢だった」
「トン、おいで」
リコは僕をそっと抱きしめてくれる。
やっぱり、僕は彼女を傷つけるわけにはいかない。
そしてやっぱり、僕が死ぬわけにもいかない。
まあ、僕は実質死ねないんだけど……。
僕はなんとか、リコとこれからもずっと一緒にいれる方法を探す必要がある。
このわけのわからない現象を、制御して、魔物の力を自分のものにする必要がある。
「うううう……!」
また、あの力が僕を狂わせる。
内側から、沸き上がってくる。
「トン、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。僕が……なんとかしてみせるから」
それからは、さっきと同じことの繰り返しだった。
僕の中のバケモノが暴走して、僕が自害して……その繰り返し。
何度も、何度も、何度も、僕は自害し続けた。
これほどまでに自分を不甲斐なく感じたことはない。
自分で自分をコントロールできないなんて。
そして、1100回目のやり直し――。
「できた……! できたぞ……!」
「トン……?」
僕はついに、その力をコントロールすることに成功した。
「まさか《
《
そのことに気づいたのは割と早めの段階だったが、実際それを使いこなすのに、かなりの時間を要した。
「リコ、見ていて」
僕はさっそく、マスターした力を試してみる。
「《
すると、ズズズズズという音とともに、僕の内側から魔力が湧き出てくる。
そして、右手の一部分のみが悪魔化した。
「トン、その力って……」
「そう、僕はずっと、この力にうなされていた。だけど、コントロールできるようになったんだ」
右手にものすごい力が込められているのがわかる。
僕は第六感で、近くにどんな動物、魔物が隠れているのかがすぐにわかる。
すぐそこに、ピッグオークが隠れているのがわかる。
さっきまで、僕たちを襲おうと息をひそめていた。
ちょうどいい――。
「そこだ……!」
――ドン!
僕は右手のパンチだけで、ピッグオークを仕留めた。
「すごい……」
「リコ、もう安心して。僕は自分の中にいる魔物を、手なずけた。これでこれからもずっと、いっしょにいることができるよ」
「トン、私のために……うれしい」
その後も、2回ほど肌を重ねた。
リコには僕の身に起こったことをすべて、共有した。
これからは、二人一緒に生きていく。
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