第18話 保護


 あれから2度ほど野宿をした。

 僕たちはもうずいぶん遠くまで来た気がする。

 徒歩だから、実際はそれほどではないかもしれない。

 だけれども、村という小さな小さな世界しか知らなかった僕らにとっては、これでも十分な大冒険だった。


「そこの子供たち、止まりなさい!」


 突然、道を行く馬車からそんな命令を受ける。

 僕たちがなにかしたのだろうか?

 田舎者だから、知らない礼儀作法とかがあったのだろうか。


「な、なんですか……?」


 その馬車から降りてきたのは、とても綺麗な女性だった。

 いや、綺麗といっても、ドレス姿などではなく、騎士の姿をしていた。

 白い鎧に、ところどころ金色の装飾がしてある、豪奢な騎士姿。

 場所も同様に、大げさな飾りつけがしてある。

 しかも白馬二頭。


「突然呼び止めてすまないな。私は聖エルメスタ王国の騎士――ガウェイール」


 僕はそのとき、女性としては珍しい名前だと思った。

 そのことが顔に出ていたのだろうか。


「この名は父がつけた名でな。うちには男児が産まれなかった。だから私がこうして、騎士団を率いている訳だが……まあ、そんな話はどうでもいいな」


 声も低く、男勝りという言葉が良く似合う人だった。

 赤い髪をひとつに束ねていて……。

 目つきも鋭く、とにかくカッコいい人だった。

 そのあふれ出るカリスマ性もあって、僕はすぐに彼女を信頼に足る人物だと判断した。


「僕はトン・デモンズです。こっちはリコ」


「君たちを呼び止めたのは、理由があってだな。私たちはずっと君たちを探していた」


「え!? 僕たちをですか?」


「まあ、詳しい話はあとにしよう。とりあえず、馬車に乗ってくれ」


「は、はぁ……」


 僕たちは言われるがまま、馬車に乗りこむ。

 とりあえず危険はなさそうだし、もし抵抗しても、勝てそうにない。

 相手は王国を代表する騎士団の長だ。


「大丈夫なのかな……?」


 リコが心配そうに僕に小声でささやく。

 大丈夫だ。

 なにかあっても、僕が守るから。


 そう誓って、僕はリコの頭をそっと撫でた。







「トンくん……突然の話で驚くかもしれないが……。君の中には、魔王デモン・ヘルズゲートの魂が封印されている」


 馬車に揺られながら、僕はガウェイールさんの話を聞く。

 正直驚きはあまりない。

 もともと、僕の中にがいることはわかっていた訳だし……。

 がなんであろうと、僕は負けないつもりだ。

 まあ、その名前を知れたのはよかったかな。


「ずいぶんと落ち着いているんだな……」


 逆に、僕の反応にガウェイールさんが驚いているようだ。


「ええまあ、おおよその見当はついていましたから」


「それなら話が早い。私たちは君を保護しにきたんだ。君の中から発せられている、魔王の魔力を探知して、君を見つけたんだよ」


 なるほど、一応は納得のいく説明になっているね……。

 だけど、なぜ今更?


「あの村はね、一種の結界になっていたんだよ。そのせいで、君を見つけることができなかった。これは我々の力不足だ。すまない……」


「あの村を……知ってるんですか?」


「ああ、君を見つける前、あの村の状態を見てきたよ。嫌な事件だったね……。子供たちだけで、よく生き残れたものだ」


「あの村は……いったいなんなんですか?」


 僕は、長年の疑問をついに解決する糸口をつかんだと、心が浮き立つ。

 あの村には、絶対に秘密があった。

 今はそう確信している。

 あそこは、おかしかったんだ……。


「あれは君を隠しておくための結界だ。あそこの村人たちは、君を閉じ込めて、魔王の復活の機会をうかがっていたのさ。カルト教団だよ」


 まさか……そんな……。

 あの村の人たちは、僕を囲ったカルトだっていうのか????

 そんなところで僕たちは育てられたと……?

 なんでだろうか……なぜか納得がいかない。


「それはおかしいです! だってトンは、みんなにひどい目にあわされてきました!」


 リコが口を開いた。

 初対面の人に、リコがここまで強い口調で話すところを見たのは初めてだ。


「いや、おかしなことはないさ。トンくんの事情を知っている者は、トンくんを気味悪がるだろうし、知らない者も、やはりなにか感じるものがあったのだろう……。魔王の魔力というのは、それほど強力なものなんだよ。彼らがトンくんを恐れていじわるするのも、不思議ではない」


「うーん……?」


 やはり、ガウェイールさんの説明はどうもおかしな部分がある。

 部分的には正しいことを言っているのだろうが、なにかまだ隠していることがあるに違いない。


「私からも、質問していいかな……?」


 ガウェイールさんが、不気味な笑顔でそう問いかける。

 とたんに、雰囲気が変わったような気がする。


「はい……」



「君たちは、あの村を出たのかな……?」

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