第19話 接敵
「君たちは、
ガウェイールさんがそう言ったと同時、彼女から強烈な殺気が放たれる。
「…………!?」
僕はとっさに、リコを庇い、馬車から飛び降りる。
幸いなことに、僕もリコもアイテムやスキルのおかげで怪我をせずにすむ。
馬車から落ちるようにして、地面をゴロゴロと転がる。
僕は受け身をとりつつ、リコをその物陰に隠れさせた。
「…………ガウェイールさん、彼女は……僕たちを殺そうとした……!」
「そんな……!」
「リコ、僕が戦うから、隠れていて!」
そうこうしているうちに、馬車が停止し、ガウェイールさんが地面に降り立つ。
そしてこちらへと近づいてくる。
殺気がものすごいせいで、ガウェイールさんの居場所が手に取るようにわかる。
これも、第六感のおかげかもしれない。
「トンくん……素晴らしい判断だよ。よく避けたね。だけど……甘い!」
ガウェイールさんは剣を抜き、一瞬で僕へと距離を詰めてくる。
早い……!
そうか、僕には魔王の魔力が流れていて、それを察知して彼女たちはやってきたと言っていた。
つまり、僕の居場所もバレているというわけだろう。
だが、なぜガウェイールさんは急に僕たちを殺そうとしてきたんだ……?
「うあああああ!」
僕はとっさに、アイテムボックスから【龍殺しの剣】を取り出して、応戦する。
――キン!
「なかなかいい反応だ。魔王の子よ!」
ガウェイールさんが僕を見る目は、先ほどとは打って変わっていた。
さっきまでは子供を優しく保護するような目つき……。
だが今は、まるで忌々しい怪物を前にしているかのような、冷たい目だ。
「なぜ、僕たちを襲うんですか!?」
剣と剣で撃ちあいながら、僕は訊ねる。
「なぜだと……!? そんなこと、わかり切ったことじゃないか……! キサマが魔王の依り代で、私が聖エルメスタ王国の聖騎士だからだ!」
――ガキン!
ガウェイールさんは語気を強めると同時に、剣を強く打ち付けてきた。
そのせいで、僕の剣は弾かれて、地面に落ちてしまう。
「つ、強い……!」
やばい、このままだと確実に負ける……!
ここは、あの力を使いこなすしかない。
あまり人に見られるといけないかなと思っていたけど、ここはそんな場合じゃない。
それに、相手は僕の力のことを知っているみたいだし……。
「《
今の僕には、5パーセントが自我を保てる限界だった。
それ以上になると、また我を忘れてしまうので、自害せざるを得なくなる。
「はっは……! ついに正体を現したな! 魔の物よ!」
「うおおおおおおお!」
僕は魔の力を利用して、襲い掛かる!
右手で殴るだけで、ガウェイールさんの剣を打ち砕く!
――ズドン!
「うわ……!」
そのままガウェイールさんを押し倒し、馬乗りになる。
あとは拳を振り上げて、威嚇して試合終了だ。
「ガウェイールさん、もう戦いはやめましょう。僕の勝ちです!」
「……………………」
なぜだろうか、ガウェイールさんは口を大開にして驚いている。
文字通り、言葉を失っているようだ。
「まさか……トンくん……君は、魔王の力を完全にコントロールしているのか……!?」
「完全に、ではありませんが……一応……」
「驚いた……」
そうこうしているうちに、僕のまわりをガウェイールさんの部下の兵士たちが取り囲んでいた。
僕には剣が向けられている。
「もういい。剣を下げろ」
突然、ガウェイールさんは兵士たちにそう命令する。
「兵士長……しかし……!」
「いいから。貴様らも見ただろう? 彼は魔族の力を扱いながら、その力に呑まれず、こうして自我を保っている……」
「そんなばかな……」
「ああ、信じられんことだ。だが、事実だ。このことは、我々にとっても朗報だ。とりあえず連れて帰ろう」
「っは……かしこまりました」
なんだか僕を置いてけぼりにして話が進んでいる……。
結局僕は、彼らの根城に連れていかれるということか?
でも、襲ってきておいて、虫がいい話だな、という気もする。
だけどまあ、僕としても、自分に関する手がかりがぜんぜんないんだ。
彼らについて行くメリットは十分にあると考えられるだろうね。
「というわけだ。トンくん。その……そろそろ、退いてくれないか……?」
「……へ? あ、ああ……! す、すみません! 今、退きますね!」
そういえば、僕はガウェイールさんに馬乗りになったままだった。
でも、ガウェイールさんと僕の身体じゃ、大人と子供の違いがある。
無理やりにでも押しのけることができたはずだ。
でもそうしないということは、彼女にはもう敵意がないと考えてもよさそうだ。
「おっと……」
僕がガウェイールさんから退こうとすると同時に、ガウェイールさんも身体を起こす。
そのせいで、僕はバランスを大きく崩してしまう。
「わわわ……!」
思わず目の前のガウェイールさんの身体に、しがみつく。
「いてて……」
恐る恐る目を開けると、そこには髪の毛と同じくらい真っ赤になったガウェイールさんの顔があった。
「トンくん……君は……」
「え……?」
自分の手の位置を、ゆっくりと確認する。
「あ……」
「まったく……」
「す、すみません……」
僕の手は、あろうことかガウェイールさんの胸の位置にあった――。
「ま、まあこのことは、先ほどの無礼に免じて不問としよう……。だからその、君も私たちのさきほどの愚行を、許してくれないか……?」
「え、ええ……まあ、いいですけど……」
その後、もう一度僕たちは馬車に乗り込む。
そこからの旅路は、じつに気まずかった――。
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