第20話 砦
「さあついたぞ、ここが……聖エルメスタ王国が誇る『砦』だ!!」
馬車から降りたガウェイールさんは、自信満々にそう言った。
村しかしらない僕たちからすれば、ここがどれほどの砦なのか、想像もつかない。
でも、たしかなことは、ここが「とんでもなくデカい砦」だってことだ。
「はえぇ…………」
僕は開いた口がふさがらない。
「さあトンくん。中に入ってくれ」
「は、はい……」
◇
砦は、とにかくもう、デカかった。
村の集会所や、村長さんの家なんか、比べ物にならない。
内装も、見たこともないような装飾品でいっぱいだ。
「では改めて、トンくん。君の身に起こったことをすべて、話してもらおうか」
大きなテーブルに、僕とリコ、それからガウェイールさんの3人が腰かける。
部屋も妙に広くて、なんだか落ち着かない。
「それより、説明をしてほしいのはこっちのほうですよ。僕たちを殺そうとしたことについても、なにか理由があるんですよね……?」
話をするのなら、そちらから話すのが筋だろうと、僕は浅い経験ながら思う。
仮にも、彼らは一度、僕らに剣を向けたのだ。
「そうだな……改めて謝罪をしよう。すまなかった……。だが、お察しの通り、我々にも事情があってのことなんだ。それは理解してもらいたい」
「わかっています。なので、その事情とやらを聴かせてください」
この話の内容次第で、彼らが今後、味方になるのか敵になるのかがわかる。
僕はまだ、彼らを信用しきれないでいた。
もちろん剣を向けてきたこともそうだが……それ以上に、彼らの話がどこまで本当か、見極める必要がある。
もし、なにか不都合があれば、僕が自害し、やり直せばいい。
「いいだろう。まず、君の身体に魔王が眠っていることは話した通りだ。そのうえで、我々は君を殺そうとした。そうすれば、魔王の力ごと消し去れると考えたからだ」
「…………」
仮に僕が殺されたとして、魔王の力とやらはどうなるんだ……?
僕の主観では、時間が巻き戻るだけだけど……。
もしそのスキルがなければ、どうなるんだろう?
僕が知らないだけで、スキルを無効化する方法もあるかもしれないから、警戒は常に必要だ。
そういえば、あのクロウヘッドも僕を殺そうとしていた。
だけどクロウヘッドの目的は、魔王を消し去ることじゃなくて、魔王の復活のはずだ。
だから、僕を殺しても、魔王の力を消すことにはならないんじゃないか……?
そのことを、ガウェイールさんたちはどの程度わかっているのだろうか。
「聖エルメスタ王国としては、魔王の討伐こそが目的なのだ。そのために君を探していた。大昔に君の一族の身体の中に魔王を封印し、あの村に閉じ込めた人物がいる。それは勇者と呼ばれた……。だが、我々はそれでは足りないと考えたのだ。魔王が存在したのでは、いつかまた復活する。それを消し去るために、君を探していたんだよ」
「なるほど……事情はわかります」
まあ、ガウェイールさんの言うことがそのまま事実だとはとても考えられないけど……。
彼らの行動と発言には、あきらかな矛盾がある。
クロウヘッドの行動を考えても、不思議なことばかりだ。
これはなにか、裏があるに違いない。
「でも君はどうやら、魔王の力をコントロールしているみたいだ。だから我々は、今の君に危険性はないと判断した。それに、魔王の力を引き出せる君を、敵にまわしたくはないからね……。だから、これからは協力していきたいと思うんだ」
なんともまあ、都合のい話だ。
でも、僕にとっても都合のいい話だ。
僕にはほかに手がかりがないし、行く当てもない。
とりあえずここにとどまるのが、妥当な案い思えた。
「はじめは殺そうと思ってたんだけどね、魔王の力をコントロールできるのなら、それに越したことはない。我々だって、罪のない子供を、殺したくはないからね」
たぶん……それは嘘だ。
ガウェイールさんは本気で僕を殺しにかかっていた。
なにか目的があれば、躊躇なく子供を殺せる人だろう。
魔王の力を
そうか……わかったぞ、つまり……。
彼らの目的は、僕の
「さあ、私たちのことは話したんだ。次は君の番だよ、トンくん」
「分かりました……僕たちに起きたこと、そしてあの村に起きたことを、お話します」
相手の目的さえわかれば、話は単純だ。
僕には相手の欲しい情報が、手に取るようにわかる。
つまり僕が彼らと敵対しないようにするためには、僕に
そうすれば僕の力が暴走しない限り、殺されないですむだろう。
彼らは僕を利用するつもりだが、それならこっちも同じだ。
僕も彼らを利用して、情報をできるだけ引き出そう……。
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