第20話 砦


「さあついたぞ、ここが……聖エルメスタ王国が誇る『砦』だ!!」


 馬車から降りたガウェイールさんは、自信満々にそう言った。

 村しかしらない僕たちからすれば、ここがどれほどの砦なのか、想像もつかない。

 でも、たしかなことは、ここが「とんでもなくデカい砦」だってことだ。


「はえぇ…………」


 僕は開いた口がふさがらない。


「さあトンくん。中に入ってくれ」


「は、はい……」







 砦は、とにかくもう、デカかった。

 村の集会所や、村長さんの家なんか、比べ物にならない。

 内装も、見たこともないような装飾品でいっぱいだ。


「では改めて、トンくん。君の身に起こったことをすべて、話してもらおうか」


 大きなテーブルに、僕とリコ、それからガウェイールさんの3人が腰かける。

 部屋も妙に広くて、なんだか落ち着かない。


「それより、説明をしてほしいのはこっちのほうですよ。僕たちを殺そうとしたことについても、なにか理由があるんですよね……?」


 話をするのなら、そちらから話すのが筋だろうと、僕は浅い経験ながら思う。

 仮にも、彼らは一度、僕らに剣を向けたのだ。


「そうだな……改めて謝罪をしよう。すまなかった……。だが、お察しの通り、我々にも事情があってのことなんだ。それは理解してもらいたい」


「わかっています。なので、その事情とやらを聴かせてください」


 この話の内容次第で、彼らが今後、味方になるのか敵になるのかがわかる。

 僕はまだ、彼らを信用しきれないでいた。

 もちろん剣を向けてきたこともそうだが……それ以上に、彼らの話がどこまで本当か、見極める必要がある。

 もし、なにか不都合があれば、僕が自害し、やり直せばいい。


「いいだろう。まず、君の身体に魔王が眠っていることは話した通りだ。そのうえで、我々は君を殺そうとした。そうすれば、魔王の力ごと消し去れると考えたからだ」


「…………」


 仮に僕が殺されたとして、魔王の力とやらはどうなるんだ……?

 僕の主観では、時間が巻き戻るだけだけど……。

 もしそのスキルがなければ、どうなるんだろう?

 僕が知らないだけで、スキルを無効化する方法もあるかもしれないから、警戒は常に必要だ。


 そういえば、あのクロウヘッドも僕を殺そうとしていた。

 だけどクロウヘッドの目的は、魔王を消し去ることじゃなくて、魔王の復活のはずだ。

 だから、僕を殺しても、魔王の力を消すことにはならないんじゃないか……?

 そのことを、ガウェイールさんたちはどの程度わかっているのだろうか。


「聖エルメスタ王国としては、魔王の討伐こそが目的なのだ。そのために君を探していた。大昔に君の一族の身体の中に魔王を封印し、あの村に閉じ込めた人物がいる。それは勇者と呼ばれた……。だが、我々はそれでは足りないと考えたのだ。魔王が存在したのでは、いつかまた復活する。それを消し去るために、君を探していたんだよ」


「なるほど……事情はわかります」


 まあ、ガウェイールさんの言うことがそのまま事実だとはとても考えられないけど……。

 彼らの行動と発言には、あきらかな矛盾がある。

 クロウヘッドの行動を考えても、不思議なことばかりだ。

 これはなにか、裏があるに違いない。


「でも君はどうやら、魔王の力をコントロールしているみたいだ。だから我々は、今の君に危険性はないと判断した。それに、魔王の力を引き出せる君を、敵にまわしたくはないからね……。だから、これからは協力していきたいと思うんだ」


 なんともまあ、都合のい話だ。

 でも、僕にとっても都合のいい話だ。

 僕にはほかに手がかりがないし、行く当てもない。

 とりあえずここにとどまるのが、妥当な案い思えた。


「はじめは殺そうと思ってたんだけどね、魔王の力をコントロールできるのなら、それに越したことはない。我々だって、罪のない子供を、殺したくはないからね」


 たぶん……それは嘘だ。

 ガウェイールさんは本気で僕を殺しにかかっていた。

 なにか目的があれば、躊躇なく子供を殺せる人だろう。

 魔王の力を――彼女はそう言った。


 そうか……わかったぞ、つまり……。

 彼らの目的は、僕のだ。


「さあ、私たちのことは話したんだ。次は君の番だよ、トンくん」


「分かりました……僕たちに起きたこと、そしてあの村に起きたことを、お話します」


 相手の目的さえわかれば、話は単純だ。

 僕には相手の欲しい情報が、手に取るようにわかる。


 つまり僕が彼らと敵対しないようにするためには、僕にと思わせればいいんだ。

 そうすれば僕の力が暴走しない限り、殺されないですむだろう。

 彼らは僕を利用するつもりだが、それならこっちも同じだ。

 僕も彼らを利用して、情報をできるだけ引き出そう……。

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