第22話 レベル上げ
「……でだ、それを踏まえて。私から提案なのだが、君が仲間になる代わりに、私が君のレベル上げに協力する……というのはどうだ?」
ガウェイールさんは改めて話を仕切りなおす。
テーブルに置かれたグラスは、既に空になっていた。
難しい話に、リコは少し退屈そうな顔をしている。
「レベル上げ……ですか」
「私は今、レベル88だ。それに戦ったからわかるだろうが、君より強い。まあ、君が魔王の力を使えば別だが……」
確かに、ガウェイールさんはめちゃくちゃ強かった。
それに、一国の騎士団の団長だというのだから、レベル88というのも本当だろう。
そんな人にレベル上げを手伝ってもらって、しかも剣の技術も磨いてもらえるのなら……!
「たしかに、それは僕にもメリットのある話ですね……」
「だろう? それにだ、君の状態は、一刻を争うぞ? さっさとレベル上げをしてしまわないと、魔王にその身体を乗っ取られることになる。
まあ、僕には経験値5倍があるから、なんとかはなりそうだけど……。
普通にレベル上げをするのは、たしかにリスクも大きい。
いくら僕に死に戻りの能力があるとはいえ、一度魔王に乗っ取られたら、それも意味がなくなるだろうし……。
なるべく早くレベルを上げたほうがいいのはその通りだ。
「それに、君は今後、さまざまな主義主張の団体や、その力を狙う魔族などに襲われることになるだろう。理由は様々だろうがな。だからこそこの砦に、君を連れてきたんだ。ここなら魔力探知防止の結界も張ってあるから、君を見つけるのに時間がかかるし、なにより我々が護ってやることもできる。この砦は防衛には最適だぞ?」
なんだか上手く口説かれてしまってる感じがするけど……。
でも、それが最適な案に思える。
他に行く当てがないのも事実だ。
「わかりました。仲間になります、それで、お願いします。いいよね、リコ?」
「うん……私は、トンについてくだけだから」
ということで、僕たちはこの砦に引きこもって、レベル上げをすることになった。
「よし! そうとなればさっそくレベル上げだ。演習場にいこう」
ガウェイールさんは興奮して立ち上がり、僕の腕を引っ張る。
あ、これ……たぶん滅茶苦茶キツイことやらされる予感しかしない……。
◇
僕の予想は当たっていた。
――キン、キン!
「どうしたトンくん! そんなものか!?」
「ちょ、ちょっと……休ませてくださいよ…………!」
ガウェイールさんと僕で、模擬試合を繰り返しているのだが……。
さっきからガウェイールさんはまったく隙を見せないし、つかれたようすもない。
僕はといえば、もう剣を振るのですら精一杯だった。
なにせ、ガウェイールさんの剣は一撃一撃がすごく重い。
これでも手加減をしているそうだけど……。
「だめだ! 時間はないんだぞ! 魔族などを倒す経験値に比べて、人間同士の模擬試合で得られる経験値は少ないんだ! 休んでる暇はない!」
実際に敵を撃破することで得られる経験値に比べて、こういった命の駆け引きのない戦闘では、得られる経験値が少なくなる。
それでも、ガウェイールさんとのレベル差を考えれば、森の魔物を倒すよりは効率がいい。
実際、さっきから5ほどレベルが上がった。
それに、これはただレベルを上げるだけでなく、剣の技術向上にもなっているのだ。
これから先、僕はいろんな連中に命を狙われるそうだから、剣は扱えるに越したことない。
「も、もうムリですぅ~」
「だらしがないなあ……まあ、いいだろう。初日はこのくらいで」
僕はものすごい疲労感とともに、砦の中へと戻った。
砦は四角形で、その中央が吹き抜けの演習場になっている。
演習場を出た僕は、大浴場へと向かった。
今日一日の汗を、流すためだ。
大浴場は兵士みんなが入れるように、ものすごい広さで作られている。
なにせこの砦は、4万もの兵士が常駐して籠城できるように作られているんだとか。
ここなら、僕の身も安全だそうだ。
まったく、やっかいな力を持ったもんだ……。
村を出たと思ったら、いきなり拉致られ「君は世界中から狙われている!」だなんて……。
「ふぅ……生き返る……」
それでも、お湯につかればそんな心配事はきれいさっぱりに忘れられる。
僕が使わせてもらっているのは、兵士たちが使う第一浴場とは別の、少し小さめの第二浴場だそうだ。
それでも、かなり広いけどね……。
僕は村の小さな湯船しかしらないし。
第二浴場を使えるのは、ガウェイールさんに許可された一部の人間だけらしい。
だから、今ここには僕しかおらず、貸し切り状態だ。
基本的には、ガウェイールさん専用風呂となっていたと聞いた。
やっぱり、すごく強くてエライひとなんだなぁ……。
そんな人に守ってもらえて、稽古もつけてもらえるなんて……。
「ひょっとして僕って、けっこうラッキーなのかな……?」
まあ死に戻りの能力のおかげも大きいけど。
それだって、ラッキーだった。
このスキルだってそうだ。
まあ、生まれながらにして魔王の器に選ばれたのは、ラッキーとは言えないかもしれないけど。
そんなことを考えながら、湯船に浸かっていると……。
僕しかしないはずの風呂場に、声が響いた。
「よっと……」
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