第15話 さよならだ
「《
――ガチャ。
僕らは門を開け、新たな世界へと一歩を踏み出す。
だがその瞬間、突然後ろから声がかかる。
「おい! ちょっと待てよ!」
振り向くとそこにいたのは――。
「アッケネーア……!?」
生きていたのか……。
うれしいのか、ざんねんなのか……どうでもいいのか。
僕はそのときの自分の感情がわからなかった。
どう感じる
アッケネーアの肌は、ところどころ火傷でただれていた。
だが運のいいことに、彼はなんとか一命をとりとめたようだ。
もともと《剣聖》のスキルに目覚めるほどの運の持ち主だから、まあ……不思議じゃない。
「この村を……出るのか?」
「ああ、そうだよ」
僕はアッケネーアの感情がよくわからない。
自分の感情すらもよくわからないのだ、当然だ。
でも、アッケネーアはいまどういう気持ちでいるのだろう。
僕に怒ってる?
恨んでる?
それとも、うらやんでる?
わからない。
「お、俺も……連れて行ってくれないか!?」
「…………は?」
僕は遅れて理解する。
アッケネーアはいま、
よりにもよってこの僕に?
「それは……本気で言ってるのか?」
「ああ。俺は見ての通り、ボロボロだ。それに、みんな死んじまった! 頼れるのはお前らだけだ! それに、俺は見ていたんだ。お前が戦ってるところを!」
あのとき、草むらにでも隠れていたのか?
危険なことをする……。
「俺はお前があの怪物をやっつけるところを見た! それで、自分の間違いに気づいたんだ! 俺は《剣聖》のくせにビビッて、逃げちまった! 隠れていた! それなのにお前は……カッコいいよ」
アッケネーアがまさか、そんなことを言うなんて。
今回の出来事は、よほど衝撃的だったのだろうな。
「お前はリコを護った! 俺は尊敬するぜ! だからなぁ! お願いだよ、俺も連れて行ってくれ。邪魔にはならないからさぁ、頼む!」
「ふぅ…………」
アッケネーアの演説が終わったようだから、僕はようやく長い溜息をはきだした。
「…………?」
「あのさぁ、アッケネーア。君は僕に、なにをしたか……覚えてるよね?」
「う……! それを言われると……」
そう、産まれてからこの14年、僕はずうううううっとこいつに我慢してきた。
なにもかもがコイツのものだった。
僕はないがしろにされ、ときにはいないものとして扱われた。
それに、先日のことだってそうだ。
彼は僕に嫉妬し、愚かにも剣を向けてきた。
さらには嘘をついて、みんなを騙して……僕をおとしいれた。
僕が最初から村にいたら、まだみんなを護れたかもしれない。
罪のない人だっていたはずだ。
子供もいた。
悪い大人たちもたくさんいたけど、なにも殺されるべきだなんて、そこまでは思わない。
そんな人たちまで、大勢死んだ。
アッケネーアには《剣聖》という超強力なスキルが備わっている。
それを上手く使えば、数人くらいは救えたかもしれない。
でも彼は、逃げた。
まあ……それはこの際、どうでもいいか。
単に僕は、コイツを許せない。
「正直な話、僕は君なんかとはもう、
「あ、謝るよ……ごめん」
「あ、今初めて謝ったよね。まずはさぁ、お願いする前にそれを言うべきだよね?」
「そ、そうだな……本当にごめん……」
「はぁ……」
ほんとうはコイツを、八つ裂きにしてやりたいくらいなんだ。
そのくらい、彼には苦しめられてきた。
でも、僕も鬼じゃない。
「アッケネーア、今までのことは……その、許すよ」
「ほ、ほんとうか……!? やっぱりお前は心が広いなぁ!」
アッケネーアの顔がぱぁっと明るくなる。
でも――。
僕は人差し指で彼を制止する。
「ただし、許すだけだ。だから……」
「……?」
「今後一切、僕たちに関わらないでくれるか?」
「……!」
もう、人生をめちゃくちゃにされるのはこりごりだ。
これからは、僕は自分の人生を取り戻す。
過去の恨みなんかに、囚われている暇はないんだ。
「う……わ、わかったよ……」
「リコも、それでいいよね?」
「うん。私も、トンと二人きりがいいから……」
リコは僕に寄り添いながら、そう言った。
アッケネーアはさぞ、悔しいだろうな。
僕はいままでずっと、そういう思いをしてきたんだ。
「だ、そうだ。ということで……さっさと僕たちの目の前から、消えてくれるかな?
「っく……」
アッケネーアは門を出て、南の方角へとぼとぼ歩いていった。
まあ、あれだけ歩ければ、死ぬことはないだろう。
知らんけど。
「じゃあリコ、僕たちは反対の方角へ向かおうか」
「そうね」
目指すは北だ。
僕たちは外の世界をなにも知らない。
これから先、出会うことすべてが新しいことだ!
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