第14話 魔の王
「「《Lv5エアガストロング》――――!!!!」」
――ォォォオオオオオオ!!
どこからともなく、風が来たる――。
「おお! これこそ魔王様の御業!」
クロウヘッドは天を仰いで拝み続ける。
もうすでに戦意は喪失しているようすだ。
風。風。風――。
それは徐々に大きくなっていき、クロウヘッドの身体を飲み込む。
「おお……! まさに、心ごと浄化されるようでございますぅううう!」
身体を風で引き裂かれながらも、クロウヘッドはどこかうれしそうだ。
風は周囲の木々を巻き込みながら、どんどん成長し――。
――巨大な渦となった。
僕も、もはや立っているのがやっとだ。
自然災害級の大竜巻。
それが局所的に集まって、威力を増して襲い来る。
ついにはクロウヘッドの身体の毛が、肉が、バラバラに引きちぎれ始めた。
風は複雑な軌道を描き、クロウヘッドの肉体を破壊していく。
まるで、命を削り取る鎌のように――。
「これがLv5の魔法の威力……!」
僕も生で見るのは初めてだ。
それも、自分が使うことになるなんて。
数分の後、風がようやく止んだかと思えば――その場にはクロウヘッドだった
「うぇ……バラバラだ……」
思ったよりグロテスク。
まあ、最初に僕が死んだときに比べればマシかな?
とにかく僕は勝ったんだ。
だけど勝利に酔いしれるのはまだ早い。
リコの無事を確認しなければ。
「リコ――!」
僕は急いで待ち合わせの場所へ向かう。
そういえば、あれはなんだったんだろう?
僕がLv5エアガストロングを放つ前、聞こえた声。
結局【僕の心の扉】――そのカギはどうなったのだろう?
まあ、いいか。
そのときの僕は、刻々とタイムリミットが迫っていることに、まだ気がつかないでいた――。
◇
「リコ! お待たせ。よかった、無事だった」
「トン! 心配したのよ。あの魔族は?」
僕たちは村の外れで落ち合う。
そこはちょうど、村から外の世界へ出るときの門がある場所だった。
試練の祠にいく道以外には、基本この門からでないと外の世界へは出られない。
つまり、ここが一番、村から遠い場所だった。
「倒したよ。もう心配いらない」
「ほんと!? すごいのね、トン。やっぱり……私の王子様だね!」
「り、リコを護るためだよ」
僕は照れくさくて、少し顔をそらす。
リコは昔からそういう、おとぎ話が好きだった。
おとなしい子だけど、けっこうロマンチストなんだ。
「それで……これからどうするの?」
リコが不安そうに僕にたずねる。
「この村を出る。元々、僕はそのつもりだったしね。成人したらこの村を出る」
アッケネーアや村長さんからの虐めには、耐えかねていた。
成人すれば村を出ることを許されるし、そうなれば、街に出て冒険者にでもなるつもりだった。
「わ、私もいく……!」
リコは僕にしがみつく。
大切なおもちゃを他人に渡さないようにして。
不安……だったのだろうね。
僕を待っているあいだ。
もう二度と、そんな思いはさせたくない。
「はは、当然だよ。もちろんリコも一緒さ! 僕は当然そのつもり。僕とリコはずっと一緒だよ?」
「よかった……もうどこにも行かないで、トン」
僕たちはお互いをきつく抱きしめ合う。
「そうだ、トン。村の人たちは……?」
僕は無言で首を横にふる。
さっきここに来る前に見てきたけど……誰も生き残ってはいなかった。
みんな燃えて灰になったか、煙を吸って息絶えた。
まあ、もしくは……あのクロウヘッドに殺されたかだね。
仮に運よく生き残った人がいても、もうすでにどこかへ逃げているだろう。
それか、隠れているかだね。
リコがクロウヘッドに見つからずにいたのは、きっと例の装備品のおかげだろう。
あのアクセサリさえ装備していれば、僕がいないときでも守ってくれる。
「じゃあ、行こうか」
「うん……そうだね」
僕たちは名残惜しみながらも、産まれた村にさよならをする。
この村にはまだまだ謎が多い。
なぜ、ここが襲われたのか。
僕と魔王……そこにどんなつながりが?
それを解明するためには、いろいろ調べ回る必要がありそうだ。
「じゃあ、開けるね?」
「うん、お願い」
村と街道を繋ぐ門の前に立つ。
この門は、子供たちには
村の掟で、子供が外へ出ることは固く禁じられている。
この門を開けられるのは、カギを持つ村長さんか、司祭さんだけだ。
なぜ、そんな掟が作られたのか。
今となっては、わかる気がする。
もしくは――まあこれは邪推にもほどがあるけれど――
「《
――ガチャ。
「開いた!」
これでようやく、僕たちは外の世界に出られる。
初めて出る、外の世界。
そこは、どんなだろうか……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます