第11話 ふりかえり


「……う、ん? ここは……?」


確か僕はクロウヘッドに負けて、殺されたはず……。

あれは、夢だったのか?


《いいえ、夢ではありません。あれは現実ですマスター》


システムメッセージが寝ぼけた頭に容赦なく響く。

なんだかもうずっと、何百年ものあいだ眠っていたように、身体が重い。


「ど、どういうこと……?」


辺りを見渡すと、僕は今、村の牢獄にいることがわかった。

僕はここから出て、リコを助けにいったはずだけど……。


《パッシブスキル『聖母の加護』により、前回のセーブ地点から復活しました》


シスが答える。


「え? 前回のセーブ地点?」


《最後に睡眠をとった場所のことです》


なるほど、確かに僕はここで睡眠をとった。

だけど、死に戻りなんてにわかに信じられないな。

そんなことが、本当にあるのか?


パッシブスキル聖母の加護――たしか説明には、こう書かれていた。

《これを持つ者は死んでもその前からやり直せる。また、大幅に耐久値が上がり、致命傷、即死ダメージを避ける》


「これが本当なら、僕は何度でも蘇ることができるってことか!?」


《その通りです、マスター》


そのことを理解すると、急に吐き気を催してきた。

僕は、んだ。

それは、まぎれもない事実。


たとえ今生きていても、なかったことにはならない。

少なくとも、


「おえええええええええええ……」


だめだ。考えちゃだめだ。

今はそれよりも、やらなきゃいけないことがある。


「あいつを倒すんだ……!」


最強魔族クロウヘッド――あいつをなんとかしない限り、僕もリコも生きてはこの村を出られないだろう。

だけど、龍をもしのぐ最強の魔族を、どう攻略する?


【龍殺しの剣】も無駄だった。

下級の、Lv1の魔法も歯が立たない。

あと、他に試していないことはなんだろうか……?


「そうだ、シス! スキルポイントって、振り直すことはできないのかい?」


《可能です、マスター》


「ほんと……!?」


Lv1の魔法で敵わないのなら、もっと上位の魔法を使うしかない。

それならば、まんべんなくスキルを振るんじゃなくて、のほうがいい。

やり直せるのなら、それを試さない手はないだろう。


「でも、スキルポイント36ポイントだけじゃ、極振りしてもせいぜいLv2のスキルを得るので精一杯だ。あんなやつにLv2で勝てるだろうか……?」


Lv5とはいかなくても、せめてLv3は欲しい。

なにかいい方法はないかな?

僕はいろいろ考えながら、スキルツリーとにらめっこする。


「あいつは空を飛んで攻撃してきた……。雷属性の魔法なら、効果が期待できそうだ」


僕は雷のスキルツリーに36ポイント全部をつぎ込むことにした。


《それでは、このスキル割り振りで問題ありませんか?》


「ああ、確定するよ」


極振りによって僕が得たスキルは以下の通り。



―――――――――――――――――――――――


●雷のスキルツリー

・Lv1サンダー

・Lv1サンダーショット

・Lv2サンダーボルト


―――――――――――――――――――――――



まだ戦力に不安はあるけれど、とにかくこれで立ち向かうしかない!

幸い、僕は死んでも何度でもやり直せるんだ。

まあ、痛いのはもうこりごりだけど……。


リコと生きてこの村を出られるまで、何度でもやり直す……!





僕は前回たどったのと同じようにして、リコの元までたどり着く。

途中なんども火に襲われそうになるけど、無視して走り抜ける。

熱ささえ気にしなければ、幸い《聖母の加護》のおかげで火傷することもない。

僕は超人的な耐久力を手にしていた。

煙を吸っても、それほど苦しくはない。

それこそ、首をもがれて顔面をつつかれでもしない限り、生きていられる。


「いこう、リコ!」


「トン!」


前回より少し早くたどり着くが、逃げようと走っている間に、クロウヘッドが僕たちを見つけた。


「見つけましたよ魔王様クケケ!」


幸い、ここは開けた場所だ。

僕の雷魔法もよく当たるだろう。

まわりに高い木などがあると、狙いが外れかねない。


「リコ、逃げて……!」


僕はすぐにリコを逃がす。

さっき逃げながら、リコにはいろいろ説明しておいた。

クロウヘッドが来たらすぐに逃げること――。

さすがに死に戻りのことは誤魔化したけどね。


「おや? 状況の呑み込みが早いですねぇ。さすがは子供とはいえ、魔王様の器……! その力、試させてもらいますよ! グゲゲ!」


クロウヘッドが一直線に僕に向かってくる。

ここは開けているから、逃げ場がない。

僕はそのまま、クロウヘッドのくちばしに、腹を貫かれる。


「うぐ……!」


「クキョキョ! やはり魔王様の器といえど、人間! もろい! もろすぎますよアナタァ!!!!」


「……っく、そうかな……?」


「なに……!? まだ意識が……!?」


僕は腹を貫かれ、空中に連れ去られながらも、意識を保っていた。

これは《聖母の加護》によるものだろう。

精神を集中させることで、ある程度の痛みになら耐えられる。


「ふん、だけど、もう死にそうじゃないですか! 魔王様を返すのです! グキョー!」


僕はクロウヘッドのくちばしを身体全体で固定する。

腹に刺さったまま、捕まえて逃がさない。


「なんという真似を……!」


「捕まえた……!」


この状態でなら、放てる。

前回は魔法をすべて避けられた。

今回はその失敗を活かす。


「《Lv2サンダーボルト》!」

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