外れスキル《マスターキー》がとんでもチートだったので最弱から最強へ。心の扉を開けたら魔王の力に目覚めました。宝箱、レベル制限、スキルツリー――どうやらこの鍵で開けられないものはなさそうです。

月ノみんと@世界樹1巻発売中

1部

第1話 ドナウ村のトン


僕はトン・デモンズ。

ここドナウ村に暮らす、平凡な少年だ。

ドナウ村のトン。


自分でも間抜けな名前だと思う。

でもそれが、今の・・僕だった。


「おいトン、今日は【成人の儀式】の日だが、覚えているか?」


僕を起こしに来たのは村長さん。

僕には親がいないから、村長さんの家でお世話になっているんだ。


「はい、もちろんです」


この村では14歳になると【成人の儀式】に参加する。

【成人の儀式】では、司祭さまからそれぞれ《スキル》を授かるんだ。

授かる・・・と言っても、何か特別なことをするのではなく、もともとの才能を呼び起こすといった感じらしい。


「だったら、さっさと起きて準備をせんか! このバカ者! 兄さんのアッケネーアはもう朝ごはんを食べて先に出ていったぞ! まったくこの出来損ないめ! 誰が養ってやってると思ってるんだ!」


寝起きの僕に、村長さんがパンを投げつける。

なにが兄さんのアッケネーアだ。

あんな奴……。


アッケネーアは村長さんの実子で、僕をいつも虐めてくる嫌な奴。

それに、起きるのが遅れたのは、僕のせいじゃない。

昨日の晩、僕に遅くまで掃除をさせたのは、村長さんじゃないか。


「す、すみません……今行きます」


「はぁ? 声が小さくて聞こえねぇなぁ! うじうじしてないで、ちょっとはアッケネーアを見習ってシャキッとしやがれ! このグズ!」


「う……」


村長さんは僕の背中をバシンと叩く。

相変わらず力が強くて、背中がヒリヒリする。

声も大きく乱暴だし、この親子にはホントにうんざりするよ。


養ってもらってることは……まあ、感謝するけどね。

でも僕の寝床は階段下の物置だし、食事も食べ残し……。

正直、感謝より惨めさのほうが勝つ。



そんな僕も、今年で14歳だ――。



―――――――――――――――――――――――――――



「おう、遅かったじゃねぇか。びびってトン・・でっちまったのかと思ったぜ。キャッハッハ!」


「お、おはよう……アッケネーア……う、兄さん……」


僕はコイツが苦手だ。

嫌なことは全部僕に押し付けるし、からかうし、バカにするし、殴ってくるし……。

こんな奴らと暮らしているせいで、僕はますます引っ込み思案になった。

今じゃ言いたいこともうまく言えないし、たまにどもったり・・・・・もしてしまう。


でも、成人になったらこの村を出るんだ!

僕はそれだけを希望に、生きてきた。


「今日は【成人の儀式】だぜ? 楽しみだよなぁ? 夜には【祭り】もあるんだぜ? 今から待ちきれねえよ!」


アッケネーアは鼻息を荒くする。


「そうだね、兄さん……」


夜の【祭り】では、成人となった男性が、好きな女性を誘うことができる。

女性は必ず誰かを受け入れなけらばならず、男性は必ず誰かを口説き落とさねばならない。

もしもパートナーにありつけなかった場合、そいつは欠陥品・・・の烙印を押される。

僕はただでさえこの村で浮いてるんだ。

これ以上、惨めな思いをするわけにいかない。


「お前はもう誰か誘ったのかよ? 今年は新成人の女が少し、少ないそうだぜ? ま、お前なんかは近所のおばちゃんにすら相手にされないだろうがな! ガッハッハ!」


「いや、僕にもちゃんとあて・・はあるさ」


そう、僕にだって、好きな子くらいいる。

そして多分、彼女も僕のことが好きだ。

お互いに引っ込み思案なところがあるから、はっきりとは言わないけど……。

とにかく僕らは通じ合っている。

その確信があった。


「ほう……そうか、誰と踊るんだ? 俺たちに教えてくれよ」


……ん?

俺たち?

そういえばさっきから、アッケネーアの後ろに誰かいたような……?


アッケネーアは後ろに隠れていた女の子の肩を無理やり掴み、僕の目の前で見せびらかす。

そんな……。

まさか、そんなことって……!?


「リコ……?」


「トン……おはよう」


アッケネーアの後ろから、もじもじとした態度で現れたのは――。

僕の最愛の幼馴染――リコ・ユリネスティだった。

薄紫のショートカットが良く似合う、大人しい感じの美少女だ。

どうして彼女がアッケネーアと一緒に?


「おう、俺はリコを誘うことに決めたからよ。お前もはやく相手みつけろよな。キッヒッヒ」


アッケネーアはいやらしく嗤う。

っく……!

リコは僕と踊るはずだったのに!

なんでアッケネーアなんかと!?

きっと、リコも本当は嫌に決まっている。


「リコ……!」


「トン……」


リコの顔を見ると、やっぱり今にも泣きだしそうだった。

ああ、きっとアッケネーアに脅されてるんだ……。

僕がしっかりしていなかったから。

リコも大人しい性格だし、なかなか断れなかったのだろう。

あの目は、僕に助けを求めている目だ。

ずっと一緒にいたから、僕にはわかる。


「待てよ! アッケネーア……!」


「あん? 今なんつったぁ!? オイこらトン!」


「う……」


僕は勇気を出して、アッケネーアを呼び止めた。

だけどアッケネーアの大声に、どうしても萎縮してしまう。

やっぱり、怖いものは怖いよ……。

僕なんかには、リコを守ることはできないんだ……。



――そいつを殺れ。女を取り戻せ!



「うぅ……!?」


突如、僕の頭の中に不気味な声が響き渡る。

まただ……。

僕はこの声を、勝手に【僕の心の魔物】と呼んでいる。


僕が心を閉ざして、負けそうになると、話しかけてくるんだ。

僕の心の中の部屋には、大きな重い扉があって、そこには固いカギがかかっている。

僕は今こそ、そのカギを壊して、本心をさらけ出さなきゃいけなかった――。

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