第9話 渦中
僕はいろいろ悩んだ結果、3つのスキルツリーに均等に割り振ることにした。
いろんな属性を使えた方が便利だしね。
それに、まだあまり強力なスキルを得ても、使いこなせる気がしなかった。
魔力の問題もあるし……。
《それでは、このスキル割り振りで問題ありませんか?》
システムメッセージが告げる。
「うん、これで確定するよ」
スキルポイント36を等分して、12ポイントずつ。
僕が得たスキルは以下の通りだ。
―――――――――――――――――――――――
●炎のスキルツリー
・Lv1ファイア
・Lv1ファイアウォール
●雷のスキルツリー
・Lv1サンダー
・Lv1サンダーショット
●氷のスキルツリー
・Lv1アイス
・Lv1アイスバーン
―――――――――――――――――――――――
魔法の前についてあるレベルは、その魔法のランクを表す。
ランクは5段階で、上にいくほど威力が上がる。
「うん、まずはこんなものかな」
はやく試してみたいけど、ここは牢屋のなかだしね。
もう遅いし、今日は眠ることにしよう。
いろいろなことがあって、心身ともに疲れた。
「おやすみ、リコ」
僕は遠くで眠っているはずのリコにおやすみを告げた。
もちろん聞こえるはずはないだろうけど、リコもきっとそうしているに違いなかった。
牢屋から村までは3分ほどの距離にある。
そのくらいの距離は、僕らにはなんてことなかった――。
◇
――ゴオオオオオオオオォォォ!
なんだか外が騒がしい。
村の方からただならぬ音がする。
――バチバチバチ。
なんだか暑くて寝苦しい。
これは……夢?
僕は夢を見ているのか……?
だとしたらこれは悪夢だ。
いや、この感覚は、たしかに実在している!
「……っは! リコは……!?」
僕は急にリコのことが心配になって、飛び起きる。
どうやら本当に、村の方でなにかあったらしい。
人々が叫ぶ声が聞こえる。
それに、なんだこの焼け付くような暑さは……?
眠たい目をこじ開けると、まるで戦場のように、煙や火花が舞っていた。
「村が……火事なのか……!?」
僕はようやく状況を理解する。
村が……いったいどういう理由でかは知らないけど、燃えている。
そのあまりにもな光景は、僕のいる牢屋からでも余裕で確認できるほどだった。
「大変だ、リコを助けなきゃ!」
僕は急いで牢屋を出ることにする。
「《
僕が唱えると、牢屋の鍵は簡単に外れた。
レベル3となった今の僕なら、ほとんどの鍵は余裕で開けられるだろう。
「今行くからね、リコ!」
村へ向かって全速力で走りだす。
途中で炎と煙に、何度も阻まれる。
だけどそのたび――。
「《Lv1アイス》!」
――パリーン!
覚えたての魔法で、それを退ける。
炎は一瞬にして凍り付き、砕け散る。
初めての魔法にしては、なかなか上出来だと思えた。
「よし、これならいける!」
あっという間に村までたどり着く。
途中で何人か死体を見つけたが、見ないふりをする。
不思議と悲しくはない。
大人たちはほぼ例外なく僕を虐めていたし、子供たちもろくなものじゃなかった。
そう、リコ以外は――。
でも、肝心のリコの居場所が――。
「あれ? なんでだ? わかる! わかるぞ!?」
どうしてだろう、村の中で、リコがどこにいるのかが、鮮明にわかる。
まるで、千里眼のように。
《パッシブスキル『第六感』の効果により、リコ・ユリネスティを探知》
そうか! 祠で得た6つのパッシブスキル、そのうちの一つが《第六感》だった。
そのおかげで、リコの居場所がわかったんだ!
「ありがとう、シス」
《いえ、お安い御用です》
僕は急いでその場所へと向かう――。
◇
「リコ! 大丈夫!?」
リコは彼女の家の物置小屋に隠れていた。
そこまでは火は回っておらず、上手く安全地帯になっていた。
「トン! よかった! 出られたのね!?」
「うん、僕は大丈夫だよ。それよりけがは……?」
まあリコは【生命の宝珠】を持っているから、死ぬことはないだろうけど……。
それでもそんなことは関係なく心配だ。
「私は平気」
「よかった……」
ちなみに、リコの母親は他界していていない。
父親も他の女性を追いかけて出ていったらしい。
なのでリコの境遇も、僕と似たようなものだ。
心配しなきゃいけない両親などいない。
唯一違うのは、村人たちに嫌われているか否かだね。
「それで、リコ。村に何があったんだ!?」
まさかアッケネーアが放火……!?
いや、そんなまさかね……。
「それが、何者かが村を襲ったのよ」
「なんだって!?」
でも、盗賊の襲撃にしては大規模すぎる……。
村人たちだって馬鹿じゃない。
反撃の手はいくらでもあったはずだ。
優秀なスキルを持つ人だってたくさんいる。
それに、村は塀に囲まれていて、簡単には出入りできないようになっている。
バリケードが何重にも張られているし……。
「あれはたぶん……魔族よ」
「そんな……!? なんでこんな村に!」
「わからない。でも、彼らは何かを探しているようだった……。それが村にないとわかると、今度は牢屋のある方角へ探しにいったみたいだけど、出くわさなかった?」
「いや……たぶん、すれ違いになったんだと思う。運が良かったよ。僕は一直線にリコのとこまで来たからね」
「トン……ありがとう」
「よし、今のうちに逃げよう。そいつらが戻ってくるかもしれない」
「村の人たちはどうするの!?」
「みんな自分たちで逃げるさ。それに、どのみちもう全員は救えない」
「うん……そうね……」
正直、村人たちに恨みがないと言えばうそになる。
ついさっきも、僕を冤罪で牢屋に閉じ込めたところだしね。
特に、アッケネーアと村長さんは……。
まあだからといって、直接手を下したり、救えるのに見殺しにしたりなんかするつもりはない。
もちろん、僕だって救えるならそうするさ。
だけど、相手は魔族だ。
戦ったって勝ち目なんかない。
村には僕よりも強い大人たちがいたはずだ。
それが敵わなかったということは――。
理不尽なギャンブルに挑むよりも、僕はリコを救うことに専念したいんだ。
「さあ、いこう」
「うん……」
僕たちがその隠れ場所から顔を出した瞬間だった――。
ぎょろっとした大きな目玉が、逆さ向きに僕らの目の前に現れた。
人間の身体に、カラスの頭がくっついたような、そんな異形の存在。
「キシシシシシ。やぁ、ハロー? ようやく見つけましたよォ? ふおぉっほっほほっほ!」
体中が震え、ゾッとした。
これが――魔族。
目が合っただけで、5度ほど死を意識した。
それでも僕は、何としてでもリコを守らなくてはいけなかった――。
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