第24話 レベルマックス


 そう言って向かってきた敵の正体は――!


「あれは……!?」

「アレは魔王の元側近……!」


 それはどう見ても、人間と悪魔が交じりあったような姿をしていた。

 そう、まるで力を抑えられていないときの僕のような見た目だ。


「あれが……上級魔族の姿なのか!?」


 その魔王の側近、彼は僕を見つけるなり、目線で威嚇してきた。

 まるで目線だけで人を殺せそうな勢いだ。


「我が名はドゥアァク! キサマが魔王の器か……!」


「そ、そうだ……!」


 一目見ただけで分かった……!

 こいつは……強い……!

 僕よりもかなりレベルが上だろう。


「うおおおおお!」


 僕はさっそく、魔王の力を何割か引き出して、攻撃を仕掛ける。

 しかし……。


「あれ……?」


 あっという間に、僕の生首は宙を待っていた。


「そんな……!? あれだけレベルを上げたのに……!?」


 それから、僕は死んで、前のセーブ地点に戻された。

 でも、前のセーブ地点は、さっき部屋にいたところからだ。

 つまり、今回は時間がない。

 前まではスキルを振りなおしたり、レベルを上げたりする時間があった。


 だから、なんとかなってきたんだ。

 でも、今回は眠ったタイミングが悪かった……。

 そのせいで、なんど繰り返しても同じ結果になってしまう……。


「クソ……どうすればいいんだ!」


 僕は目覚めてすぐ、発狂しかける。

 だって、これでもう550だ。


「どうしたの……トン?」


「リコ……」


 そういえば、今まで僕はリコに頼ろうともしなかった。

 こんなにそばにいたというのに……。

 僕はただ一人で、勝手に突っ走って……。


 リコはこんなにも心配そうな顔をしているのに。


「それが……上手くいかないんだ!」


「トン……すごい顔をしているわ。私に、なにかできないか……話してみて?」


「リコ……そうだね」


 僕はリコに、今までのことを全部話してみることにした。

 もちろん、タイムリープのこともすべて含めてだ。


「そうだったの……」


「リコ……」


 リコはとっても優しい顔をしていた。

 僕がそれだけ辛い顔をしていたんだろう。


「大丈夫だよ、トン。よく頑張ったね」


「う、うう……ありがとう、リコ……」


 リコはこんなにも優しい子で、僕にとってすごく大切なのに、僕は500回も繰り返しても、そんな彼女を護れないことを悔しく思う。


「僕は……もうだめなんだ。リコを、護れないんだ」


「大丈夫だよ、トン。私も、戦うから……!」


「え!? リコが……!?」


 そうか……。

 僕はかってに、リコを護ることばかり考えて、彼女をまったく見ていなかった。

 リコだって、戦おうとしてくれている。

 僕はもっとはやくリコを頼るべきだったのかもしれない。


「でも……どうやって!?」


 そういえば……リコにもスキルがあったはずだ。


「《魔道書庫》……」


 僕はそのスキルがどんなものかも確かめてこなかった。

 僕はリコを、護るといいつつ、ぜんぜん見ていなかったじゃないか!


「そうだ、魔道書庫……! そのスキルを使えば……!」


 どうやら魔道書庫は、たくさんの魔法が秘められた図書館にアクセスできるというものだった。

 それを自在に操れるらしい。


「こんなの、軽いチートじゃないか……!」


 僕が言うのもどうかとは思うけど……。


「でも……ダメだ……」


「どうしたの……?」


「ここに載ってるのは、全部Lv5の魔法までだ。それなら、もうすでに僕が何度もいろんな属性で試している」


 それでも、ヤツには……。

 魔王の手先ドゥアァクには、ひとつも傷が通らなかった。


「あいつは……めちゃくちゃ強い……! それこそ、僕が500回繰り返してもまったく歯が立たないくらいにね……」


 そんな規格外の敵を倒すには……もうあれしかない。


「幻のLv6……その魔法さえ使えれば……もしかしたら」


 でも、そんなの、おとぎ話の中にすら出てこない。

 だけど魔王の力というものは、最強なはずなんだ。

 魔王の力が100%引き出せれば、魔王の側近なんかに負けるはずがない!


「Lv6……そんなの、ありえないわ……」


「そうだよね……。僕もそう思う……、でも、限界を超えないとあいつには……!」


 僕はそこまで自分で言っていて、気がついた。


……」


 そう、僕はこれまでにも、限界を超えてきたじゃないか……!

 僕の、僕自身の才能はなんだ……?

 魔王の力じゃない、僕の力。


 そうだ、僕は決して、魔王の器なんかじゃないし、魔王の入れものなんかじゃない!

 僕はトン・デモンズ!

 《万能鍵》の支配者だ!


「《万能鍵マスターキー》――なんでも開く鍵!」


 僕はリコに向けて、鍵のスキルを使った。


「トン!? どういうこと……!?」


「魔道書庫を開いて……! 魔道書庫のをこじ開ける! 僕のこの、で!」


「分かったわ……! 来て、トン!」


「うおおおおおおおおおおおおお!」


 すると、リコのスキル――魔道書庫の新たなページが開いた。

 そこには……。


「Lv6……いや、その次のページ……!」


「Lv7!?」


 そこには唯一のLv7の魔法の呪文が書かれていた。


「よし、これなら……!」


「そうね……これなら!」


 その魔法は、どうやら二人で唱える必要があるらしい。


 僕とリコは、覚悟を決めて、2人で戦場へ向かった。


「我が名はドゥアァク! キサマが魔王の器か……!」


 もう500回は聞いたセリフを耳にする。


「さあ、これでもう終わりにしよう……!」


「な、なんだその魔力は……!?」


「いくよ、リコ……!」



――《マスターキングオブグランドブレス》!



 僕たちは、力を合わせてLv7の特大神話級魔法を使った……!

 これは正真正銘、僕とリコだけの力だ……!



「ぐわあああああああああああああああああああああああ!」



 空から飛来した、超巨大な光の束が、ドゥアァクの身体を引き裂く。


「まるで、光のシャワーだ……」


 そしてドゥアァクの身体は、数秒後には跡形もなく消し飛んでいた……。


「やったぁ……! やったよリコ!」


「うん、やったわトン!」



 僕たちはよろこび、抱きしめ合った。

 今まで以上に、リコとの絆が強くなって、より近くに感じられた気がする。


「まさか魔王の側近ドゥアァクまで倒してしまうなんてな……トンくん」


「ありがとうございます。これもガウェイールさんとの修行のおかげです」


 そして、僕はドゥアァクを倒したことによって、一気に大幅にレベルアップした。

 なにせ、僕には経験値5倍がついている。


 その後、何日かさらに修行を重ねた。

 途中、また同じような敵に襲撃を受けたが、僕たちの敵ではなかった。

 むしろ経験値を運んできてくれるいいかもだ。


「よし……! これで、ついにレベル100だ!」


「おめでとうトン!」


 レベル100ということは、マスターキーの施錠レベルの最大だ。


「これで、魔王を完全に制御できる……!」


 こうして、僕は自分の安全を勝ち取った。

 これからは、もう誰にも邪魔されない……!


「いいのか……完全に封印してしまって……」


「いいんです。もともと僕には必要のない力です。ガウェイールさんには悪いですけど」


「いや、いいんだ……争いの種は、ないに越したことがない。今まではその方法がなかっただけだ……」


「行きます……! 封印!」


 僕はマスターキーを使って、魔王の力を完全に閉じてしまうことを選んだ。

 これで僕にはもう特別な力は宿っていないけど……。


 もう僕は一人でも大丈夫だ。

 リコもいるし、僕自身、すごく大きな存在になれた!


「じゃあね……僕の心の中の怪物……! 今まで助けてくれたことには礼を言うよ……!」


 その後、僕の中の魔王の魔力は完全に消滅した。

 それによって、変な団体たちからも狙われることもなくなったわけだ。


「行くのか……?」


「ええ。僕とリコは、まだ旅を続けます。これから自分たちの人生を生きます」


「じゃあな……さみしくなるよ」


 僕とリコはガウェイールさんに別れを告げて、砦を旅立った。

 あてはない。

 あの村を出た時と一緒だ。

 ただ違うのは、もう僕の中に謎は残されていないし、なんのしがらみもないってことだ。


 それに、今はリコと本当に信頼し合えるパートナーになれた気がする。


「いこうリコ、どこまでも!」


「うん!」





――END.

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外れスキル《マスターキー》がとんでもチートだったので最弱から最強へ。心の扉を開けたら魔王の力に目覚めました。宝箱、レベル制限、スキルツリー――どうやらこの鍵で開けられないものはなさそうです。 月ノみんと@世界樹1巻発売中 @MintoTsukino

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