〜小山若犬丸の乱〜 祇園の城を目指して。6

それから歩く事、数日が経った。




そしてやっと見えて来た。



あの山は間違い無い。




現代と全く変わらない形。




とんがり帽子のお山が二つ。




筑波山だ。





それから私達は、やっと小田さんの居城である小田の城へと着いた。




筑波山の麓の広大な平地に雄大に聳え立つ城。




一見すると平地のど真ん中に存るから、守りに弱そうだけど、高い土塁と深い堀に守られて、一切の外界から遮断されている様に見えた。




『おお、若犬丸殿よ。遠路遥々良う来られた!』



奥の広間に案内されると、大きな声を上げながらどたどたと人がやって来た。




この人が小田孝朝おだたかともさん。



時代劇で出てきそうな典型的な武士って感じの人。




『孝朝殿、此度の御助力の程かたじけない。』



『嫌なに……。

我等小田は亡き義政殿、若犬丸殿にかような酷い事をしてしまった。

お父上の事で、儂を深く恨んでいよう……。

決して許される事では無い。』



孝朝さんは長く深々と頭を下げた。



『気になされますな。

私は恨んでなどおりませぬ。

それに、誰も鎌倉公方には逆らえませぬから。』



『そうか、すまぬな……。

しかし、あの方は本当に強欲なお人じゃ。

ここ最近は、まるでこの関東の地を己が物とするかの如くの振る舞いじゃ。』



『仰る通りで。

小田殿は先の我等との戦の恩賞が低く、不満を抱かれているが為に我等に合力すると申しておりましたが、誠は我等小山の二の舞になるのではと感じたからでは御座いませぬか……?』



『流石、聡明と呼び声の高い若犬丸殿じゃ……。

その通りじゃ。

我等もいつ小山殿の様になってもおかしくない。

以前の小山殿と全く同く公方様の牙が喉元に届いておる様なものじゃ。』



『最早、生き延びる為には力を合わせるしか御座いませぬ。』




斑鳩が読んだ通りね。


きっと、この人達も私達と同じで、生きるか死ぬかの瀬戸際で必死なんだ。




『私は先ず小山を再興して、南朝や反鎌倉公方の勢力を結集すれば、鎌倉公方に疑いを持っていた将軍が停戦に入り、将軍は鎌倉公方の力を削ぐと思います。』



『その様に上手く行くのか?』



『小田殿の力が有れば。』



『如何に南朝の残党や我等と小山殿の力を結集したとしても……。

若犬丸殿っ! ま、まさかっ!!』



『左様です。

それには小田殿のお力が必要です。

そして、それが私の鎌倉公方を討負かす秘策に御座います。』



『た、確かに、それならば公方様に勝てるやもしれぬ……。

だが賭けではあるがな。

しかし、我等も最早後は無い。

黙っていても、近い将来いずれは小山殿と同じ様になるだろう。

そして公方様はまた次の者を探す……。

いつかは関東の覇者となって将軍になるつもりじゃろう。』



『仰せの通りです。

きっと鎌倉公方は、仇をなすと思われる名だたる関東の御家人を制し力を増強するのは、未だに将軍になる望みは捨てて無いとの証に御座いましょう。

室町殿を倒す為に、邪魔な者はきっと排除して行きましょう。』



『た、確かについ先日に小山殿の下河辺の荘は鎌倉府の管轄に、つまり公方様の直轄になってしまったからな。』

※下河辺、現在の茨城県古河市・境町・五霞町・坂東市、埼玉県加須市付近。



『な、なんとっ!

将軍がお認めになられたのですか!?』



『そうじゃ。

交渉の末に妥結したらしい。

将軍も今は自身の基盤である畿内に多くの敵を抱えておる故、今は公方様には大人しくしていて欲しいのじゃろう。』



『な、ならば……。

急がねばならないですな。』



『左様だな。

このままでは公方様の力は日増しに増す事になる。

して若犬丸殿、いつ兵を上げる?』



『早い方が良いです。

我が小山の残党もそして、祇園の城を取り戻す為に既に小山の地にぞくぞくと潜入しておりまする。

そうですな……。

急では御座いますが、七日後は如何でしょうか?』



『七日か、早いな。

だが、その位早く動かねば公方様を出し抜く事など出来ぬか……。

いつ若犬丸殿が動き出したと、公方様に察知されるやもしれんしな。』



『だがしかし、此度の戦には小田殿は密かに我等、小山の兵として紛れてお力添えをして頂きたい。』



『どうしてだ?

此処で一気に我等が公方様に反旗を翻せば、一気に若犬丸殿の計略通りになるやもしれんぞ?』



『まだ時期が早いかと……。

我等が祇園の城を取り戻し、少しでも時間を稼ぎます。

その間に小田殿は、急ぎの我が計略の為の根回しをなさって頂きたい。

小田殿が動く時は、全てが確実に揃った時。』



『そうか、そうだな……。

若犬丸殿と共に一斉に立ち上がれば、きっと公方様とて恐れ慄くであろうな。

ならば、儂は急ぎ若犬丸殿の計略の為、動こうぞ。』



二人は眼を輝かせて硬く握手を交わした。




しかし、斑鳩は一体何を考えているのだろう。



私には斑鳩の壮大な構想は想像すらつかなかった。

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