〜小山若犬丸の乱〜 迫り来る運命の時。4

出立にあたり、私と花月は藤井さんの元へ長年の感謝と旅立ちを伝えにやって来た。



『そうか。

明朝に出立致すのか……。』



『はい。

花月から状況は伺いました。

これ以上、藤井さんにご迷惑は掛けられないし、私自身も斑鳩の元へと向かわないといけないですし。』



『すまぬな……。

儂にもっと力が有れば……。』



藤井さんは神妙な面持ちで、私に頭を下げた。



『そんな、気にしないで下さい。

そしてこの先、田村庄司さんの所で斑鳩と合流出来る筈です。

きっと今頃、斑鳩は祇園の城を取り返している筈です。』



『なっ……!!

アンタ、それなら祇園の城に行かないと!』



『これから斑鳩は、鎌倉公方の侵攻を受けて祇園の城を捨てるわ。』



『だったら尚の事、助けに行かないと!』



『今から祇園の城に向かったとしても、私達が着く頃には斑鳩は田村庄司さんの元に落ち延びているわ。

それに斑鳩は祇園の城の奪還が目的じゃ無い。』



『奪還が目的じゃ無い??

だったら何でそんな無謀な事をするんだい!?』



『田村庄司さんに私達と共に鎌倉公方と戦って貰う為よ。』



『確かにその通りだ。

若犬丸殿は、田村庄司殿を味方に引き入れる為だけに祇園の城を奪還に向かっておる。

自分達の気概を見せねば味方にはならぬと言ってな。

それに、やはり若犬丸殿が申した様に、サクラ殿が未来から来たと言うのは本当なのだな……。』



『ええ、斑鳩から聞きましたか……。』



『初めて伺った時は耳を疑ったが、若犬丸殿の真剣な眼差し、そしてサクラ殿の今の話で合点がいった。』



『だけど、田村庄司さんと共に戦っても、この戦いは負けます。』



『やはりか……。

幾ら若犬丸殿と田村庄司殿が組んだとしても、鎌倉公方には勝てぬか……。』



『藤井殿、どうかこの話は胸の内に留めて置いておく下さい。

未来が変わってしまうとサクラの存在が消えてしまうかも知れません。

それに、今いるサクラの存在そのものが無くなって、サクラがこの時代に来てからの今までの歴史そのものがおかしくなってしまう……。』



花月が藤井さんに念を押した。



『確かにその通りだ。

どんどん狂って、最後はどうなるのか見当もつかなくなるな……。

しかし、未来を知っていながら傍観しか出来ぬとは、辛いお立場だな……。』



藤井さんも複雑な時の流れを理解してくれていた。




『だけど、歴史を変えずとも希望は有ります。』



『例の二つの歴史か……。

若犬丸殿が申しておったよ。

私には生きる未来も在れば、死ぬ未来も在るとな……。』



『田村庄司さんと共に鎌倉公方と戦った、その先に在る最後の戦こそが、その時です。』



『さ、最後の戦!?』


藤井さんは私の言葉を聞いて、驚愕の眼差しで私を見つめた。



『はい。

この戦に敗れた斑鳩は、会津に逃れ最後の戦に挑みます……。』



『そ、その時こそが……!』



『そうです。

斑鳩の歴史の分岐点です。』



『アンタの知っている、斑鳩の歴史の分かれ道だね……。』



『ええ、そうよ。

私が未来で習った歴史では、小山若犬丸は会津の地で鎌倉公方と戦うも敗れ、若犬丸共々その子である宮犬丸、久犬丸と言う幼い兄弟も死ぬ。

若しくは落ち延びて生きる……。』



『そ、それって!

宮犬丸と久犬丸も死ぬって事!?』



『ええ……。

これから起こる事の全てを思い出したの。

この時代って、無事に産まれて来るのも大変だし、幼い頃に死んでしまう事も多い筈なのに、二人が何事も無く無事に産まれて育って来た事もやっと分かった。

やはり、私の存在が私の知っている未来から見た正しい歴史にしながら時は流れてる……。

それに、二人の将来を考えて一生懸命考えた名前だったのに、まさか名付けた名前までもが歴史通りなんて……。』




『だが、須佐之男命は如何に歴史を正しく導く為だとしても、サクラ殿を破邪の剣の舞姫とし、そして何故この様な残酷な仕打ちを……。』




『正に、神のみぞ知る……ね。』




そうだ、思い出した。



確かこの時代に来た時に、須賀神社で須佐之男命の会った時、私を見た須佐之男命はとても悲しい顔をしていた。




あれはどう言う意味なのだろう。



私が破邪の剣の力で未来へ帰り、斑鳩が死んでしまうから?



私が破邪の剣の力で斑鳩や子供達を助け、私が輪廻の呪縛に囚われるから?




あの須佐之男命の表情からして、間違い無くそのどちらかなのだろう。




でも、例え私が犠牲になったとしても、子供達や斑鳩の為にこの破邪の剣の力を使う!





そして翌日。




『長い間、本当に有難う御座いました。』



『藤井殿、感謝致します。』



『うむ。皆、気を付けてな…。』



門前で藤井さんと今生の別れをする。



これで藤井さんとも、この菊田の地とも今生のお別れだ。



『母上、何処に行くの?』


『いくの?』



いつも元気な宮犬丸と久犬丸は、心配そうな顔をして私を見つめていた。




『これから父上の元へ行くのよ。』



『えっ! 父上の所に?』


『ちちうえ、ちちうえ!』



『ほーーらアンタ達、ちょっと遠いけど頑張るのよ!』



『はーい! 花月おばさん!』


『おばさん!』



『だから、おばさんじゃないって!』




『ははは……。ここも寂しくなるのう。』



藤井さんは少し寂しそうな顔をしていた。




『では、行って参ります!』



『うむ、達者でな。

それに、其方達にとって良い歴史になる事を祈っておる。』



『はいっ! 有難う御座いますっ!』




私達と藤井さんはお互いに今生の別れと知りつつ、笑顔で別れの挨拶を交わした。



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