〜小山若犬丸の乱〜 迫り来る運命の時。2

次の日、廊下を宮犬丸と手を繋ぎ、久犬丸をおんぶしながら歩いていると、斑鳩が廊下で外を眺めていた。



『あなた、こんな所でどうしたの??』



『父上っ!』


『ちちえ!』



『サクラ……。

それに宮犬丸、久犬丸。』



どうしたのかな?


なんか様子がおかしい様に見える。




『あなた、どうしたの?

何か有ったの? 元気ないわよ。』



『ん? そ、そうか??

そうだ、それよりも皆で海を見に行かないか?』



『海ぃ〜っ!』



宮犬丸はとても喜んで、満面の笑みで斑鳩を見つめる。



『でもあなた、急にどうしたの??』



『たまには皆で行こうと思ったのだ。

さっ、早くぞ! 花月も呼んでなっ!』




そして、そのまま皆んなで海に出掛けた。




『広ぉ〜〜いっ!

ねえっ、父上母上!! 見て下さいっ!』




宮犬丸は海を見てはしゃいでいた。




『ああ、そうだなっ! 海は大きいな〜〜!』



『あにえ〜! おおきいおおきい!』



『アンタ達! 気をつけなさいよ!』



『はーーい! 花月おばさん!』



『おばさん!』



『だ、か、らぁ〜〜!

そのおばさんは余計だっての!』




皆んなのやり取りを見つめて斑鳩は微笑んでいた。




大切な皆との幸せの時間。





これが破邪の剣の力を使って私の守りたいもの。



いつまでも、皆んなでこんな時間をゆっくりと過ごしたい。




『サクラ、海は本当に広いな。』



『そうね。』




私も微笑みながら斑鳩の顔を見つめる。




『まっ、アタシ達の絆よりは小さいけどね。』



『花月、上手い事言うわね!』




『いつか……。』



『え?』



『またこうして皆で海を見たいものだな……。』




『何言ってるの?

あなた、菊田の荘からは近いんだから行こうと思えば行けるじゃない。』




『そうだな……。』





その時、風が私達の間を吹き抜けた……。




その日の晩、疲れてしまって、帰って来て早々に宮犬丸と久犬丸と一緒に寝てしまった。




『サクラ。宮犬丸、久犬丸……。』



寝ている私に斑鳩がそっと口づけをした。




『どうか無事に平和な未来へ。』




斑鳩は宮犬丸と久犬丸の頭を優しく撫でる。




私達が気がつく事も無く、斑鳩は静かに襖を開け廊下に出て行く。




そして煌々と光り輝く月を見上げた。





『今宵は何と月が美しい事か……。

さあ、行くとするか。』




そして斑鳩は足音を立てずに門へと向かって庭に面している、廊下を歩いて行く。




そうして門へと向かっていると、廊下の先には月明かりに照らされた花月が斑鳩を待っていた。




『……アンタ、どう言うつもりだい?』



鋭く真剣な眼差しで斑鳩を見つめる。




『花月か……。』



『花月かじゃ無い!

その出立ち、まるで旅装束じゃないかっ!

一体、一人で何処へ行くのかって聞いてんだよ!』



『最早、サクラを連れて行く事は出来ぬ。

……サクラの為にもな。』



『サクラの為にも?

どう言う事なんだい??』



『サクラは、破邪の剣の力を使って私が生きる歴史にしようとしている……。だが、それは……!』



『何だって言うのさ!』




『気が付いてしまったのだ!!

もし、破邪の剣の力で未来に帰らなければ、サクラは永遠に……。』




『はぁ?

アンタ、子供まで作っておいてサクラに未来へ帰れって言うのかいっ!?』



『そう言う事では無い!

良く考えてみろ……。

なら、未来へ帰る事も出来なく、この時代で天寿を全うするサクラはどうなる?』



『そりゃ、また未来に転生してそしてこの時代に来る……、って!?』



『その通りだ。

私達が天寿を全うして、来世の命に生まれ変わろうとも、サクラだけは未来とこの時代を永遠に彷徨う事となる……。』




『た、確かに……。』




『破邪の剣の力で未来へ帰らなければ、サクラは輪廻の呪縛から永遠に解放される事は無い。』



『アンタ……。

アンタはそれで良いのかい!?』



『私はサクラが願う様に、自身の力できっと生き抜いてみせるさ……。

そして未来に帰ったサクラが、私は生き抜いたと分かる日がきっと来る様にな……。』



『格好つけるんじゃ無いよっ!

一番辛いのはアンタでしょっ!』



『花月……。』



『何でさ!

何で同じ時代に生まれなかったのさ!?

アタシはアンタ達が不憫で仕方がないよ……。』.




花月は、時の流れの残酷さを知って泣き出した。




『こんな私達の為に泣いてくれるか。

喧嘩が絶えぬ仲では有ったが、私は花月を一番に信頼している。

……サクラを頼んだぞ。』



『そんな……。

もう会えない様な事、言わないでおくれよっ!』




そうして斑鳩は笑顔で花月を見つめる。




『い、行かないでおくれよ……。』



『すまぬな……。

ここに、これからの身の振り方をしたためてある。

さらばだ……。』



『い、斑鳩!!』




そうして、何も言えずに見送る花月を背に、戦へと赴いて行った……。

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