〜小山若犬丸の乱〜 迫り来る運命の時。3

朝、目覚めると斑鳩の姿が何処にも見当たら無い。



朝から一体何処に行ったんだろ?



取り敢えず、私は宮犬丸と久犬丸を起こして着替えさせる。



『母上、眠いよ〜〜。』


『ねむいよ〜〜。』



藤井さんの所かな?




駄々をこねる二人を何とか支度させて、藤井さんの所に挨拶に向かう。



『おはよう御座います。』



『おはようございます!』


『ございます!』



『あっ、ああ……。

おはよう。今日も変わりは無いか?』




どうしたんだろ?



私達を見て何か焦ってる感じだ。



『ところで斑鳩は、ここに来ていたのでは無かったんですね。』



『えっ!? あ、ああ……。

外にでも出掛けたのではないのかな?』



『その様ですね。

では私は斑鳩を探しに参りますのでこれにて。』



『そ、そうか。』



やっぱり何か変な感じだったな。




廊下を歩いていると、花月の姿が見えた。




『あっ! 花月、おはよう!』




『おばさんおはよう!』


『おはよう!』



『……。』




あれ?



いつもなら、おばさんじゃない〜! って怒る筈なのに。



それに眼を真っ赤に腫らしている。



『宮、あっちで朝ご飯を用意して有るから、久犬丸を連れて先に行ってな……。』




『ご飯っ!』


『ごはん!』



余程お腹が空いていたのか、宮犬丸は久犬丸を連れて走って行った。




『サクラ、ちょっといいかい?』



真剣な顔をして、一体どうしたのかな?



『どうしたの? 花月。』



『……。』



『どうしたの?』



『……。』




えっ? ま、まさか!



『い、斑鳩に何かあったの!?』




花月が重い口を開く。




『斑鳩は……。

昨日の夜、ここを出立したよ。』



『な、なんで?』




どうして一人で?




『何処に行ったの!? お願い! 教えて!!』




私は花月の心の中を搾り出そうと、必死に花月の着物を引っ張って身体を揺らした。




『……アタシにも分からないんだ。』



『そ、そんな……。

なんで一人で行ってしまったの!?』



『アンタと子供達の為にだよ。

アンタの気持ちは分かるけどさ、斑鳩の気持ちも分かってやりなよ……。』



『でも、もしもの時は、この破邪の剣の力を使わないと斑鳩がっ!!』



『いざとなったら斑鳩の事はアタシが何とかするさ。

だから、アンタはその破邪の剣の力で未来に帰るんだ。』



『え? な、なんでそんな事を今更言うの……?』



『斑鳩は言ってたよ。

サクラは破邪の剣の力で自分を生き延びる歴史にするだろうと。

そうしたらアンタはこの時代で天寿を全うし、また未来へと転生する。

アンタは輪廻の呪縛に囚われて、永遠に繰り返すん事になるんだよ。

その呪縛からアンタを解放したいってね。

自分の力で生きる歴史にして、未来へ帰ったアンタに見せるのだってさ……。』




でも私の思いは、斑鳩を会津で死なせずに蝦夷に逃がしたい。




例え、輪廻の呪縛に囚われたとしても。




お互いに愛しているが、お互いの願いは全く相容れる事は無い。




『それとね。

斑鳩が、これをサクラに渡してくれと。』




それは、斑鳩からの手紙だった。



鎌倉公方の手の届かない蝦夷の地へと落ち延びて、破邪の剣の力の秘密を解き明かして、皆を連れて未来へ帰れ、必ず見送ると言う内容だった。




この斑鳩の手紙を読んでいると、何だかボンヤリと思い出した様な気がする……。




多分、私は何度もこうして永遠とも言える時間を過ごしているんだと。




『うっ!!』



私が手紙を読み終えると、突然の頭痛に襲われた。




『さ、サクラっ! どうしたんだい!?』



私は頭を抱えて蹲る。




そして、私の脳裏に全てが映し出される。




これから先に起こる全ての事を。




学校の授業でも、ここまで詳しくは教えてくれなかったけど、何故かこれから先の事が事細かに脳裏に焼き付ついて行く。



決して忘れられない位に鮮明に。




ただ、斑鳩の運命の分かれ道だけは分からなかった。




『す、全てが鮮明に分かったわ。待ち受ける最後の戦いへの道のりが……。』



『えっ!? 全てがっ……??』



『もう残された時間は無い……。』



『時間が無いって、どの位だいっ!?』



『ええ……。

残された時間は後数ヶ月……。』



『なっ!?』



『数ヶ月後の会津での戦が最後の戦いよ……。

私のいた未来では、その地で小山若犬丸は死んだとも生きて落ち延びたとも伝わってるわ……。』



『会津……。

それが、アンタ達未来の人々が見ている歴史なんだね……。』




私が必ず守ってみせる。




例え輪廻の呪縛に囚われ様とも、この破邪の剣の力を使って。




そして、皆んなで平和に暮らしましょう。




『さあ、花月っ!

こうしちゃいられないわっ!

先ずは田村庄司さんの所へ向かって、そこで斑鳩と合流するわよ!! 斑鳩も必ず来るわ!』



『田村庄司!?

そこに斑鳩がいるのかい!?』



『今はまだ居ないだろうけど、必ず田村庄司さんの所へとやって来る!』



『駄目よ!!

アンタは一刻も早く破邪の剣の力の使い方を見つけ出すんだ!

斑鳩の所へはアタシが向かう!』



『絶対に嫌よっ!!』



『ったく、アンタね……。

斑鳩の気持ちも分かってやりなよ。』



『私にだって、私の思いが有るのよっ!』



『斑鳩は、アンタが輪廻の呪縛から解き放ちたいと考えてるんだよ!?

本当は絶対にアンタを離したくないのに……。

アイツの気持ちも少しは分かってやりなよ!』




『私だって、斑鳩と花月の気持ちは痛い程分かるよ……。

でも私の気持ちは??

私はまた転生してこの時代に来たとしても、それでも良いの。

皆んなでこの先に待っている争いの無い、平和な時を過ごせるのなら……。』




『……もしも、その願いが叶わなかったとしたら?』




花月が真っ直ぐな目で私を見詰める。




『私も皆んなと共に最後まで戦って、それでも例え今世で叶わないとしても何度でも生まれ変わって、いつかこの願いを叶えてみせるわっ!』




『……。』



『……。』



『ったく、分かったわよ……。

相変わらず頑固だねぇ。

確か、田村庄司が治る地はここから北西に山を越えた先にあるわ。

そうと決まれば、さっさと向かうわよ!!』







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